
あるAI研究者の挑戦!
イネウンカ類の自動カウント技術をAIで確立せよ!

もともとは農芸化学が専門です!
今は、AI研究者となりました!
AI研究推進室
画像認識ユニット
上級研究員 高山 智光

AI研究者として活躍する高山研究員は、実は野菜の病害の研究者です。なぜ病害の研究者がAIの研究に取り組むことになったのかと言えば、九州沖縄農業研究センター(以下、九沖研)から農業情報研究センター(以下、農情研)への異動がきっかけです。以前から写真撮影技術やコンピューターによる自動化に興味を持っており、農情研で与えられたミッションが「イネウンカ類の自動カウント技術」でした。

チャレンジ START!
AIについて理解を深めながら現場の課題を抽出
AIについて理解を深める一方で、現場の課題を探りました。水稲の重要害虫であるイネウンカ類は成虫でも5ミリメートル程度で、実際の発生量調査では専門家が調査板に付いた虫を一匹ずつ目視で数えていくしかありませんでした※。人間の目で観察するという単純作業は、全国約3,000地点で月2回以上実施されており、発生量調査に従事する方たちにとっては費やす労力・時間などが大きな負担となっていました。

画像分類と物体検出をイネウンカ類の計数に利用しよう
※イネウンカ類の発生量調査 : イネウンカ類は海外から飛来するトビイロウンカやセジロウンカ、国内で周年生息しているヒメトビウンカの3種が知られています。これら3種のウンカは、イネの枯死、生育抑制、ウイルス病の媒介を引き起こし、特に大発生時には収穫に大きな被害をおよぼします。そのため日本では、イネウンカ類の飛来後の発生状況を把握するために上記のような調査を行い、多発生による被害が予測される場合は注意報・警報を発表しています。
逆算して考える
技術を開発するにあたり意識したのは、この技術が完成した際の出口です。つまり現場でどのように使われるかという普及を意識した点です。そこから考えていくことで、学習用にどのような画像を撮らなければならないかと逆算しました。

初めからこの技術が現場で普及することを考えた設計です
Mission
1
均一な画像を取得せよ!
まず、稲から調査板に落ちたウンカの画像を集めることから着手しましたが、問題は調査板をスマホで撮った程度の画像ではきちんとした認識ができないことでした。いかに高解像度の画像を手に入れるのか。予算の関係上、現場では高額の高解像度カメラなんて買えません。その時に思いついたのがスキャナで写真を撮ればいいのではないかというアイデアでした。スキャナなら安いし、高解像度の画像も得やすい。調査板をスキャナで読み込んで画像化し、それをAIに読み込ませて学習させるというやり方で進めました。

調査板をカメラで撮影しただけでは、明るさやコントラストなどが均一でなく、AIの学習データとして適していなかった!
スキャナで取り込むアイデア
Mission
2
十分な学習データを得よ!
そこで私たちAI研究者は、九沖研(熊本)の虫害グループに協力を求め、どの写真にどのウンカがいるのかを一つひとつマーキング(アノテーション)してもらったのです。その数は3万匹以上、300時間です。
当時、九州沖縄農業研究センター 生産環境研究領域虫害グループにいた矢代 敏久主任研究員
(現・植物防疫研究部門 基盤防除技術研究領域海外飛来性害虫・先端防除技術グループ)
16,000枚のアノテーション作業をやりました!


アノテーション作業を信頼できる専門家に分業してもらったおかげで高精度なAIにすることができました。できあがったAIは、矢代さんが判別した基準をそのまま受け継いでいるので、「AI矢代」と言ってもいいかもしれません。
信頼性の高い学習データを得た!
Mission
3
イネウンカ計数AIを開発せよ!
虫の数が多い時は1枚の調査板に1時間以上かかっていたものが、この技術を使えば3~4分で済むようになりました。イネウンカ類3種類を雌雄や幼虫・成虫など全部で18に分類し、90%以上の精度で見分けることができるようになったのです。これによってイネウンカ類の調査が大幅に迅速化され、均一な精度で認識できるようになり、害虫の効果的な防除や被害発生の予測につなげることも可能になりました。
現場で採取した粘着板を研究室に持ち帰り、顕微鏡で拡大して一匹ずつ数えて判別する作業がなくなるわけです。昔から「この作業をコンピューターでできたら楽なのに」というのは作業に関わっている人たちの「夢」だったらしいです。AIが進化したことで、ようやく実現しました!

趣味は、「紫峰」と同じUnix互換OSを搭載するコンピューターいじり(ハードウェアもソフトウェアも)とカメラです!趣味も仕事に活かせました
イネウンカ類を90%以上の精度で
認識・自動カウントに成功!
物体検出AIアルゴリズムの最新版と「紫峰」を利用することで、AI開発を大きく進めることができました。
Mission
4
成果を世界にも役立てよ!

日本だけでなく、イネウンカ類に困っているアジアの国にも役立てると思います!

新しい検定法に関する講習会の様子(中国)
「トビイロウンカの被害の現状と防除対策」より
AI判定技術の普及も大事ですが、その精度をさらに高めるためにも、これからもウンカの専門家、見分ける能力を持つ人たちの存在が重要なことは変わりありません!

※スクロールで全体をご覧いただけます
1 AIに学習させる
AIに学習させる | システム実装 | ||
---|---|---|---|
プロセス❶
学習するデータの収集
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プロセス❷
学習用データの作成
(アノテーション) ![]() |
プロセス❸
深層学習によってパラメーターを自動調整し、AIモデルを生成
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プロセス❹
AIモデルをパソコンなどへ実装
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研究を始めた2018年頃ではGPUの性能が足りなかったのですが、2020年、「紫峰」が導入されたことで高精度な学習が可能になりました。
学習済みのAIでウンカをカウントするときは、ゲーミングPCのような市販のパソコンが使えます。

※スクロールで全体をご覧いただけます
2 AIがイネウンカ類を自動的にカウント



・ウンカの種類 ・雌雄
・翅(はね)の種類 ・成長段階