固体NMRによるアロフェン・イモゴライトの検出とAl配位数解析


[要約]
固体高分解能核磁気共鳴固体NMR)を用いて土壌中の 29Si を観測すると,粘土鉱物であるイモゴライトおよびアロフェンを特異的かつ非破壊的に検出できる。27Al を観測すると Al の配位数情報が得られ,火山由来成分の風化過程解析などに応用できる。
[担当研究単位] 農業環境技術研究所 生物環境安全部 植生研究グループ 化学生態ユニット,
            環境化学分析センター 放射性同位体分析研究室
[分類] 技術

[背景・ねらい]
 土壌の主成分は Si と Al であり,これらの元素がどのような化学形態で存在しているかによって土壌の化学的性質は決定される。現在,一般に広く実施されている土壌中 Si および Al の化学形態分析法には,特定の試薬によって土壌から抽出される Si と Al の含量から類推する方法などがある。しかし,これらの手法では土壌に化学的処理を施すため,化学的処理前の状態を正しく推定していない可能性もある。このため,固体試料を非破壊で分析可能な固体高分解能 NMR を用いて,土壌中 Si および Al の化学形態を分析する手法を開発する。
[成果の内容・特徴]
  1. 既往の文献情報および既知物質の 29Si-NMR スペクトル分析から,土壌の 29Si-NMR スペクトルに現れるシグナルは,次の3つの領域に要約できる:(1) -78 ppm付近のアロフェンおよびイモゴライト,(2) -95 ppm 付近の Si 四面体シート(層状ケイ酸塩粘土など),(3) -110 ppm 付近のSiO2の組成を持った物質(石英,火山ガラスなど)。これらの中で(1)のシグナルはアロフェンおよびイモゴライトに特異的であることから,土壌中におけるこれらの鉱物の特異的検出法として利用可能である(図1)。
  2. 29Si-NMR 分析により,アロフェン黒ぼく土では表層よりも下層でアロフェン・イモゴライト含量が著しく高いことが観測できる(図1CD)。茶園の表層土壌は,施肥によって強酸性化している畝間(pH 3.3 - 4.1)ではアロフェンおよびイモゴライトが消失(溶解)している様子が観測できる(図1EF)。
  3. 既往の文献情報および既知物質の 27Al-NMRスペクトル分析などから,土壌の 21Al-NMR スペクトルに現れるシグナルは,次の2つの領域に要約できる:(1) 0 ppm 付近の6配位 Al(アロフェン,イモゴライト, Al八面体シート, Al −腐植複合体など),(2) 55 ppm 付近の4配位 Al (火山ガラス,Si 四面体シートに取り込まれた Al ,多くの一次鉱物など)。4配位 Al は土壌の母材に含まれることが多い一方で,6配位 Al は一旦母材が風化を受けた後に生成することが多い。このため,固体高分解能NMRで(4配位 Al ):(6配位 Al )比を明らかにすれば,土壌の風化の指標となりうる(図2)。
  4. 27Al-NMR 分析により,アロフェン黒ぼく土の表層および下層(図2EF),七本桜軽石層(13,000年前)および今市軽石層(14,000年前)(図2GH)では,すでに大部分の Al は4配位から6配位へと変換(風化)されている様子が観測できる。
[成果の活用面・留意点]
  1. 土壌の風化程度やアロフェン・イモゴライトの生成は,特に火山灰土壌の化学的特性や植物生育特性と密接に関連しており,土地利用や生産性改善の基礎資料となる。
  2. 分析対象試料は,乳鉢で磨砕するだけで固体高分解能 NMR に供試可能であるが,磁性鉱物を磁石等で除去した方がより良いスペクトルが得られる。1試料あたりの分析時間は, 29Si-NMR で1日程度, 27Al-NMRで1時間程度である。

具体的データ


[その他]
研究課題名 : 超強酸性土壌におけるアルミニウム化学種の同定
(カテコール関連物質を放出する植物の導入が周辺の植物ならびに土壌環境に及ぼす影響解明)
予算区分  : 文科省:科研費[基盤研究A]
研究期間  : 2005年度(2003〜2005年度)
研究担当者 : 平舘俊太郎,山口紀子,伊藤豊彰(東北大農),三枝正彦(東北大農)
発表論文等
1)Hiradate, Soil Sci. Plant Nutr., 50(3), 303-314 (2004)
2)Hiradate and Wada, Clays Clay Miner., 53(4), 401-408 (2005)
3)Hiradate, Clays Clay Miner., 53(6), 653-658 (2005)
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