農業環境技術研究所 刊行物 研究成果情報 平成18年度 (第23集)

主要研究成果 14

畑土壌における交換態放射性ストロンチウム減少速度は
土壌の陽イオン交換能が支配する

[要約]
人工放射性核種の長期モニタリングデータを解析し、畑土壌に吸着された放射性ストロンチウムの減少速度を求めました。放射性ストロンチウムは、土壌の陽イオン交換容量の大きい土壌ほど下層土へ溶脱しにくく、また小麦子実にも吸収されにくいことがわかりました。
[背景と目的]
 核実験由来の長寿命人工放射性核種は、現在でも土壌に残存しています。自然放射性核種に比べれば人工放射性核種の土壌中濃度はごくわずかですが、放射能事故などの不測の事態に備え、人工放射性核種の動態を明らかにしておく必要があります。そこで、畑土壌に吸着された放射性ストロンチウムの減少速度が、どのような環境要因に支配されて決まるのかを明らかにすることを目的とし、45年間収集してきた土壌の放射能モニタリングデータを解析しました。
[成果の内容]
 畑土壌の作土層では、30〜80%の放射性ストロンチウムが交換態として存在しています。長期モニタリングデータより、交換態の放射性ストロンチウム(Sr-90)の減少速度と、土壌中濃度が半分になるまでの年数(滞留半減時間)を計算しました(図1)。Sr-90は、放射壊変による半減期(28.8年)よりも速く作土から減少していました(表1)。それは放射壊変に加え、下層土への溶脱や小麦による吸収によっても畑土壌の作土層からSr-90が失われるためです(図2)。
 Sr-90の減少速度は降水量などとは関係がなく、土壌が陽イオンを保持する能力(陽イオン交換容量、CEC)が大きい土壌ほど遅いことが明らかになりました。さらに、CECが大きい土壌ほど土壌中Sr-90が小麦に吸収される割合(CR)も低い傾向がありました(図3)。Sr-90は、土壌の陽イオン交換サイトに保持されることで畑土壌から失われにくくなったと考えられます。畑土壌からのSr-90の長期的な減少を支配する多くの環境要因の中で、土壌のCECが最も重要な支配要因であることがわかりました。
 放射性ストロンチウムは、核実験の他、原子力施設の事故などによっても環境中に放出される可能性があります。事故直後の農作物への影響の程度は、大気降下物の放射能濃度から推定できます(農業環境研究成果情報:第17集25)。さらに事故後長期にわたり、土壌と農作物にSr-90の影響がどの程度残るかを推定する際には本研究成果が活用できます。
本研究は文部科学省放射能調査費「放射性核種の農作物への吸収移行および農林生産環境における動態解明」による成果です。

リサーチプロジェクト名:重金属リスク管理リサーチプロジェクト

研究担当者:土壌環境研究領域 山口紀子、駒村美佐子、関勝寿(東大農)、栗島克明(WDB 株式会社)、

      藤原英司、木方展治

発表論文等:1)Yamaguchi et al., Sci. Total Environ., 372: 595-604.(2007)

図表

目次へ戻る    このページのPDF版へ