ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

私とワーク・ライフ・バランス

お互いにねぎらいあえる環境で、時間の使い方を大切にしたい

rolemodel2-04-01渡邊修一さん
近畿中国四国農業研究センター 営農・環境研究領域
主任研究員

(写真)
センターの一般公開イベントで

今の仕事(研究)について教えてください

現在いくつかの研究課題に取り組んでいますが、その中の1つに、ソーラーパネルの電力を用いた、自動灌水システムの実証試験があります。ほ場から 1.5m程度の高さに貯水タンクを設置し、消費電力10W程度の小型ソーラーポンプで揚水します。タンクが満水になるとほ場に水を配水し、空になるとまた 貯水を始める構造で、間欠的に水が供給される仕組みになっています。タンクへの揚水量はソーラーパネルの発電量に依存していて、潅水量は日射量によって変 化するので、作物が必要とする水量を日射量に応じてゆっくり灌水できるのが特徴です。水や肥料を節約する効果が見込める上に、複雑な装置ではないので導入 コストはさほどかからずメンテナンスも容易です。現場で使ってくださっている方からも良い技術だという声をうかがっているのですが、科学的な裏付けは十分 ではありませんでした。技術開発のための試験研究には、理論が先にあるものと、技術が先にあるものとに分けられると思うのですが、私が取り組んでいるこの システムに関しては、後者ということになります。

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ナス園に設置した灌水装置

仕事(研究)で目指していることを教えてください。

畑に投入する肥料の量を減らして、土や水への環境影響を低く抑える技術を開発し、広めていくことが目標です。ですが、技術を導入する生産者側の視 点に立つと、それだけでは導入の動機とはなりません。開発した技術を利用すれば、肥料投入のコストを抑えられ、作物の品質や収量が上がり、利益が増えると いうことでないと、導入コストが回収できず、使ってもらえません。導入前後で、作物の品質は同等ですよということでは足りないのです。そこで、増収につな がる手法も探りながら、理論やデータの裏付けを進めているところです。

これまでのキャリアを振り返って、印象に残っている出来事があれば教えてください。

私は茨城県出身で、霞ヶ浦の近くにある高校に通っていました。当時の霞ヶ浦は、夏になると悪臭が漂うほど水質が悪化していました。中学生の頃から でしょうか、オゾン層の破壊など地球レベルの環境問題が大きく報じられるようになり、もともと環境問題には関心がありましたが、霞ヶ浦のような事例が身近 に存在していたことから、人間の活動が自然環境に及ぼす影響について学びたいと、大学は農学系を志しました。

大学時代では、ゴビ砂漠で植林をした経験が強く印象に残っています。スケールの大きさに圧倒され、国際的な研究・支援活動に携わりたいという思い が沸きましたが、就職活動時には「修士卒なんてまだまだヒヨッコ、もっと勉強してからでも遅くない」と諭されたこともありました。縁あって現在の職場に採 用されましたが、それまで研究してきた関東を離れ、中国・四国地域に赴任してみると、土の色から違う。香川県で8年、広島県で2年の10年間、農研機構で 研究をしてきましたが、同じ国内であっても、ところ変われば抱える課題も違うということを実感させられてきました。

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ほ場での調査

仕事以外の経験から研究活動(仕事)に活かしたことはありますか。

直接研究に活かしていることはないのですが、現在住んでいる宿舎で、町内会の総務を担当しています。議事の段取りや、お知らせの掲示、運動会の手 伝いなど、町内会内外の窓口として仕事は結構あります。たまたま引き受けることになった仕事ですが、地域で今何が起きているか、宿舎の清掃作業など住環境 の整備状況、自分たちの宿舎や職場が地域からどう見られているかなど、これまでとは違う視点で、知らなかったことを知ることができる面白さを感じていま す。
香川県の四国研究センターに勤めていた時には、組合の委員長を務めたこともあります。センターは同じ市内の2ヶ所に敷地が分かれており、職員もそれぞれ の場所で勤務しています。組合活動を通じて、普段研究をしているのとは違う単位で人脈が広がり、施設園芸のエキスパートと知り合えたり、傾斜地のカンキツ 類の研究者に水ストレスについてアドバイスをいただけたりと研究を進める上でのメリットもありました。
いずれも、仕事以外の時間を多く費やすので負担は大きいですが、こういった雑務のようなものも、せっかくやるのだから面倒と思うより楽しんで一所懸命取り組むようにしています。

ご自身のワーク・ライフ・バランスについて、苦労されたことや、大切にしていることを教えてください。

2005年に同じ職場の研究者と結婚し、2008年に子どもが生まれました。当時、私の上司に研究者夫婦がいたのですが、結婚については「大変だ ぞ」、育児休業を取ろうと相談した際には「男性の育休取得はいいことだけど、研究のキャリアとしては、メリットはない」と言われました。いずれもご自身の 体験からの現実的なアドバイスだったと思います。家庭生活について具体的な助言をいただくことは少なかったのですが、近くに研究者夫婦のロールモデルがい るのは、それだけでとても心強いことでした。育児休業については、妻の復帰予定の1月から保育園入園の4月までの3ヶ月間取得することを考えていたのです が、その時の仕事や職場の状況から断念しました。育児休業を取るというのは、研究者にとってもそれなりの覚悟と勇気がいることと思いました。

結婚当初、私は香川県善通寺市の四国研究センター、妻は広島県福山市の本所に勤務しており、別居生活でした。2006年にお互い通勤が可能な岡山 市で同居し始めたのですが、子育てが始まってからは本当に大変でした。私も妻も実家が遠く、頼ることはできません。保育園の送りは私の担当で、迎えは妻の 担当なのですが、岡山の保育園に子どもを預けて香川の職場に向かう途中、瀬戸大橋の上で、保育園から「熱がありますのでお迎えを」との電話を受けて、泣く 泣くトンボ返りしたこともありました。幸い2010年4月に私が福山市の本所に転勤となり、家族で職住接近の生活ができるようになりました。二人で同じ場 所に住み、働けることはとても重要なことです。保育園のお散歩で、息子がほ場のそばを通りかかったりすれば嬉しいですし、子どもが寝た後に職場に戻って仕 事をすることができるのはありがたいです。

共働き生活で大切にしているのは、時間の使い方ですね。我が家では、だいたい妻が食事の支度をし、食後の片づけなどは私が担当するようにしていま す。手が空いている方は、子どもと遊んでスキンシップを図っています。また、一方が子どもを寝かし付ける担当の時は、片方が洗濯や、保育園の準備などをし ています。こんな風に、どちらか一方だけが家事や育児に時間を費やしていることがないように心がけています。家の外に関しても、町内会の総務は私が引き受 けているのですが、保育園の役員は妻がやってくれています。ただし、常に均等にというわけではなく、農繁期や会議シーズンなど、状況に応じてバランスは変 わっています。これも、同じ職場にいてお互いの働いている姿が見えるから可能なのかもしれません。夫婦がお互い協力できて、ねぎらいあえる環境にあるのは 幸せですね。

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私がナスを作っていると知って、ナス嫌いの息子が「食べる」と言ってくれました。実際は食べないんですけど(笑)

活用した農研機構の制度(休暇等)があれば教えてください。

裁量労働制があったことは恵まれていたと思います。とくに岡山に住んで子どもを保育園に預けて長距離通勤していた時は、この制度があったから仕事 と生活がなんとか両立できていたと思います。他にも早出遅出勤務や育児短時間勤務などの様々な制度がありますが、その場合私か妻のどちらかに負担が偏って しまっていたかもしれません。

後輩の研究職員や、次世代の研究者へメッセージをお願いします。

最近は、研究者として一人前の方が採用されることが増えているので、あまり参考にならないかもしれませんが、駆け出しの時期は、雑務だろうがなん だろうが、現場に出ていく機会を作ることが大事だと思います。問題意識を持てる場であれば、それは雑務ではなくチャンスです。現場に出て行くことで、新し い情報や新しい視点を得ることができるのではないでしょうか。

(取材日:平成24年1月)