ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

私とワーク・ライフ・バランス

仕事と生活を上手く融合させることを意識して

rolemodel2-03-01-s大坪憲弘さん
花き研究所 花き研究領域
主任研究員

(写真)
愛車のSmartと。TX守谷駅と職場との行き来は、この車で楽しんでいます。

今の仕事について教えてください

遺伝子組換え技術をベースに花の色や形を効率的に変える技術と、これらの遺伝子組換え花きの実用化に向けて生物多様性影響を低減するための不稔化 技術の開発を行っています。主な材料はキクとトレニアです。これまでに500種類に及ぶ「新しい花」を作りました。単にたくさん作るだけではなく、これら を遺伝子組換え技術に関する教育素材として活用することを考えています。

仕事(研究)で目指していることを教えてください。

遺伝子組換えの花を世に出すことですね。花屋さんで普通にそういう花が並んでいる、という状況を作り出すのが当面の目標ですが、それには技術面と環境面、両方から条件を整える必要があります。

遺伝子組換え技術で作られた「青いバラ」は、皆さんご存じだと思います。1本3000円と大変高価な花ですが、開発に要した20年30億円といわ れるコストを回収することはできないと一般に言われています。また、遺伝子組換えで作った種を市場に出すには、様々な規制をクリアしなければなりません。 例えば、私が取り組んでいるキクの仲間は私たちの生活環境中に野生種が多く、これら野生種のキクと交雑しない(できない)遺伝子組換えキクを作らなけれ ば、市場に出すのは非常に難しい状況です。遺伝子組換え技術が抱えるこうした課題を解決するための技術開発を進めながら、社会的な環境を整える活動も並行 して取り組んでいます。

現在、遺伝子組換え技術に対する一般の方の意識には、まだまだ高い壁があります。壁と言っても一方的な拒否や抵抗感を示す方よりも、「よく分から ない」という方が大半を占めているように感じます。こうした人々が抱いている遺伝子組換えは特殊だというイメージや、意識の壁を取り払い、理解を得られる ようにしたい。そのためには、情報の提供や科学的な説明だけではなく、視覚や触覚を通じて気持ちの距離を縮めることも大切だと考えています。

花き研究所に来る前は、コムギやイネ、ダイズなどを対象に研究を進めてきましたが、花では遺伝子組換えの成果が目で見て分かりやすいという特徴が あります。これは研究素材としても教育素材としても、とても大きな魅力です。そこで、多数ある遺伝子組換えトレニアの画像を、研究所のホームページから手 軽に楽しめるようにしたり、生花を透明樹脂に封じ込めて立体標本を作り、教材キットとして教育機関での利用を進めたりといった活動を手がけています。

こうした活動を息長く続けていくことで、一般の方が店頭で遺伝子組換えの花を普通に手にとり、そして選べる雰囲気になればいいと思っています。

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国際学会で訪れたライデン(オランダ)の花屋。とにかく安い!

これまでのキャリアを振り返って、特に印象に残っている出来事があれば教えてください。

今から10年前の平成13年10月に、作物研究所から文部科学省に移り、2年半勤めた経験は人生の転機になったと思います。文部科学省研究振興局ライフサイエンス課という部署で、プロジェクト研究のサポート全般と遺伝子組換えの規制の両方に携わりました。

前者ではプロジェクトの組み方や提案書類の書き方を学び、後者では遺伝子組換えで実用化を目指す多数の研究者とのパイプができました。出会った研 究者の皆さんはテンションが高く、それぞれの立場から先鋭的な研究・開発に取り組んでおり、とても大きな刺激を受けました。ここで得た経験や人脈が、花き 研究所で研究現場に戻ってからの仕事に大いに活かされました。

仕事以外の経験から研究活動(仕事)に活かしたことはありますか。

趣味で、PC、スマートフォン、車、自転車、時計など様々な道具をカスタマイズしています。人と同じモノを持ちたくないというのもありますが、足 りない部分を見つけると埋めたくなる性分なんですね。必要な部品は海外からでも取り寄せますし、出来たモノは他の人にも使ってもらいたい。そうしたことか ら、個人輸入やネットオークションも楽しむようになりましたが、こうした場で「商売のセンス」を身につけたことは、研究のセンスを磨くためにとても役立っ ています。

市場調査、写真技術、プレゼンテーション、コミュニケーション、各種手続きや書類作成、クレーム対応などは、いずれも自身の研究の位置づけを考え たり、効果的な発信を考えたりする際のさまざまなプロセスに当てはめて援用することができます。一般の人達の興味を把握し、求められるものを提供する上で 必要なことは、ネットオークションも研究も基本は同じですから。

2009年3月には、花き研究所特別セミナー「研究を加速するサイエンスコミュニケーション:成果をわかりやすく伝えるために何が必要か」を企画 し、開催しました。15機関から55名の方に参加いただいた上に、開催後も60件以上の資料請求があり、「科学の成果を伝えること」への関心の高さを感じ ました。このセミナーには、自分が興味を持って是非お話を伺いたかった講師をお招きできたのですが、研究現場で足りないと思われた部分について、実際に ニーズがあり、それに応えることができたという手ごたえも得ました。研究以外での経験や視点を活かした、面白い企画だったと思います。

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趣味のミニベロ(小径車)。乗るより、いじる方が多いです。

ご自身のワーク・ライフ・バランスについて、大切にしていることを教えてください。

「家庭に仕事を持ち込まない」という話は良く耳にされると思いますが、私は逆に仕事と生活を上手く融合させることを意識しています。いいアイディ アというのはどこでも生まれるものなので、いつでも情報にアクセスし仕事ができるよう、ネットワーク環境の機動性を高める工夫をしています。職場と家庭を つなぐ片道1時間40分の通勤時間は、リラクゼーションにも仕事にも活用しています。休日も趣味の合間にちょっと物書きをしてみたり、ワイン片手に研究者 である奥さんと議論をしたりします。仕事が重なって忙しい時は線引きが難しくなることがありますが、そういったプレッシャーも楽しみの一つと割り切ってい ます。

日常では食事の時間は大切にしています。どんなに遅く帰っても、最低1時間半はかけて奥さんとゆっくりおしゃべりしながら頂きます。美味しいもの を食べるのは好きですし、ワインは奥さんと2人で年間365本くらい飲みます。ちなみに座右の銘は、「飯は熱いうちに食え」です。食事は食べるべき時に しっかり食べないと、良い仕事ができないという意味だと人には説明していますが、作りたてが美味しいのは間違いないですよね。

ワーク・ライフ・バランスのために活用した農研機構の制度(休暇等)があれば教えてください。

裁量労働制と休暇は大いに活用しています。時差通勤はストレス軽減と通勤時間の短縮に役立っていますし(通常9時半に出勤)、休暇は旅行や趣味のほか、家で集中して書き物をしたいときなどにも利用し、年間20日きっちり取得しています。

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フィレンツェ・ウフィッツィ美術館前の絵描きと犬。年に1回イタリアにのんびりしに行きます。

後輩の研究職員や次世代の研究者へ、メッセージをお願いします。

一番大切なのは、自由な発想をなくさないことです。分野の違う研究者や、全く立場の違う人とたくさんコミュニケーションしてください。一般の人か ら自身の研究がどのように見られ評価されているかを常に意識して、自己完結しないようにしましょう。また、先にも述べましたが、実用化を目指す研究には 「商売のセンス」が必須です。是非これを身につけてください。

(取材日:平成23年11月)