ダイバーシティ推進 Diversity and Inclusion

私とワーク・ライフ・バランス

その時にしかできないことを旬を逃さずに

rolemodel2-02-01-s吉田 充さん
食品総合研究所
食品分析研究領域 研究領域長

(写真)
避暑地で家族と(右端が吉田充さん)

今の仕事について教えてください

研究領域長は、研究所の運営と研究の推進に責任を持つ立場です。食品総合研究所には7つの研究領域があり、それぞれに研究領域長がいますが、私は食品分析分野についての責任者であり、窓口であるということです。

私の領域には契約職員の方も含めると50人くらいの人が勤めていますので、その方たちが皆いきいきと働いて成果を出せるようにするのが領域長の仕事です。

管理職として心がけていることはありますか。

「適材適所」でしょうか。各自の得意を生かしていきいきと働けるところ(分野)で働いてもらう。不得意な分野を無理強いしても効率がよくないので、不得意分野をカバーできる人材とペアやチームにして働いてもらえるよう心がけています。

これまでの経験の中で、今の仕事に役立っていることはありますか。

様々な経験が役立っていますね。学生時代には卓球部の女子の代表として、部内の男子や部外との交渉事をこなし、これが交渉力、調整力をつける初歩 の訓練になったと思います。もともと、自分の気持ちや要望をはっきり伝える子だったそうで、母には「分かりやすくて育てやすかった」と言われたこともあり ます(笑)。思えば、仕事でも家庭でも「私はこういう事情がある、だからこうして欲しい」ということを、伝え続けてきたような気がします。

人のマネジメントという面では、2年間インドで研究生活をした経験が役立ちました。生後6ヶ月の子どもを連れてインドに渡り、運転手や庭師、メイ ド、ベビーシッターを雇うという一見優雅な暮らしをしていたのですが、子育てや家事について最終的な責任は自分にありますので、物理的な負担は減らせて も、精神的なプレッシャーが軽くなることはなかったです。「奥様」として彼らに仕事を割り振り、時には彼らの家庭で起きた問題まで抱えることもあり、それ らのマネジメントはまさに管理職の仕事でした。また、インドでの暮らしは、日本では考えられないようなハプニングが起こるので、大抵のことには動じない度 胸も身についたと思います。

今から12年前、化学機器分析センターを立ち上げた後には、各方面から次々とサンプルが持ち込まれ、それぞれの依頼に応えていかなければなりませ んでした。依頼する方の要望をすぐに汲み取り、それに応えられるスタッフを担当に据えるということの繰り返しで、ここでコミュニケーション力とか、スタッ フの適性を見抜く勘が磨かれたかなと思います。

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化学機器分析センターの機器を使って決定した抗生物質の構造を示す吉田領域長。
「このくるっと丸まったところが可愛いのよ」と目を細める。

キャリアを考える上で、何か指標とされたことはありますか。

常に高いレベルの中に身を置くように自分を仕向けてきました。論文の投稿先も、ちょっとレベルが高いかな・・・と思えるくらいが、それに応じた高 いレベルの指摘を受けることができます。留学先にカリフォルニア大を選んだのも、そうした考えからです。周囲のレベルが高くても、そこで鍛えられていくう ちに「お前もなかなかできるようになった」と認めてくれる人が現れます。周囲と比べるのではなくて、過去の自分と比較するようにすれば、レベルの高いとこ ろに飛び込むのも怖くないですよ。そうした意味で学生時代に運動部にいたのは良かったですね。高いレベルの人と対峙することを怖がらず、それで負けても落 ち込まずに次のステップの糧とすることを学べました。

パートナーとの協力関係について教えてください。

夫は近い分野の研究者で、結婚前からお互いの仕事ぶりはよく理解していました。私が研究者として仕事を続けていくことについては、当然という考え です。彼の方が6歳年上で、キャリアもちょうど一歩先を行く立場でしたから、自分の部下に対するのと同じ目で研究者としての私を評価し、研究や仕事につい ても、時々に応じたアドバイスをしてくれます。

家庭の中では、それぞれ得意なことを担当しています。彼は料理が好きでよくしますし、早起きなので朝ご飯は主に彼が作りますね。細々とした書類を 整えるのは私の担当です。今飲んでいるハーブティーも、ハーブを育てるのは彼の担当、それをブレンドしてお茶にいれるのは私の担当、といった具合です。

仕事と生活の両立について、苦労されていることや工夫されていることを教えてください。

現在、91歳の義母を自宅に引き取り介護をしています。昼間はデイサービスに預けているのですが、送迎をしなくてはいけないので保育園児を抱えて いる時と同じような時間の制約があります。また、体調によって預けられない日もあります。管理職となると裁量労働制もなくなり、つらいところです。

しかし以前、義父が勤めを辞めて帰郷し、単身で自分の母親の介護をしながらの生活で体をこわして倒れてしまったということがあったので、介護のた めに仕事を辞める、一人で介護を抱え込むという選択が危険なことを、夫も身に染みて知っています。ですから、肉親の介護で生活が破綻したり、自分の命を縮 めたりすることにならぬよう、介護される側の満足を大切にしながら福祉サービスをフルに活用して、自分はしっかり働きつつ(社会福祉に還元するべく)税金 を払っていこうと考えています。

そうは言っても、認知力も体も弱ってゆく老人を、精神的にまた肉体的にどうサポートするかは、日々悩んでいるところです。老人介護経験者のメン ターがほしいのですが、介護は子育て以上に千差万別で、経験者だからと良いアドバイスを貰えるとは限らないですね。世界一の超高齢化社会日本の私たちが、 その最前線で多くの経験を積んで、今まさに様々な老人介護の道を切り拓いているところなのだと思います。

仕事と生活を充実させるために心がけていることがありましたら、教えてください。

これをしたい、あれもしたいと欲張ってしまうと時間が足りなくなって、つい睡眠時間を削ってしまいたくなるのですが、良い仕事も大事な判断も、よ く眠れていないとできません。大切な論文は夜眠い目をこすりながらでは書けません。一方、忙しい時ほど重要な決断に迫られたりするものですが、忙しい時で も取りあえず寝て頭を冴えさせて判断を下すようにしています。睡眠を大事にしなさいとは、中学校の卒業式での恩師の言葉です。当時の自分もしたい事がたく さんあって、寝る時間が惜しくてたまらず、また寝ずに頑張れる人が尊敬すべき人だと思っていたので、この教えは目からウロコで心に留まりました。休むとき はしっかり休んで、やるときは効率的に質の高い仕事をすることを心がけています。

後輩の研究職員や、次世代の研究者へメッセージをお願いします。

とにかく、色々な経験をしたらよいと思います。それも、その時にしかできないことを旬を逃さずに、です。○○一筋もいいけど、視野が狭くなってし まいそうです。また××が出来ないと嘆くこともあるでしょうが、代わりにその時にしか向き合えないことがあるでしょう。私自身はその時に出来ることを楽し みながら色々な経験を積んできましたし、それらが今の仕事への道を拓き、生活にも役立っていると思います。
それから、表現力・国語力を身につけることは大事ですね。どんなに良いデータを持っていても、それを表現できなければ意味がありません。

(取材日:平成23年10月)