なるほど・ザ・水出し緑茶 ! (詳しい解説)
- 冷たい緑茶には2種類ある! 冷茶=水出し緑茶?
- 「水出し緑茶」にしたら苦味や渋味以外の成分も出てこないんじゃないの?
- 緑茶は淹れ方で異なる生理機能を発揮する!
- 「水出し緑茶」による自然免疫能増強メカニズム
- ケルセチンをはじめとするフラボノールも水出し緑茶で摂取できます
- おわりに
- 今後の展開
- 参考論文等
冷たい緑茶には2種類ある! 冷茶=水出し緑茶?
夏になると冷たいお茶「冷茶」を飲む機会が増えますが、冷たいお茶はすべて「冷茶」だと思っていませんか? 通常「冷茶」と呼ばれるお茶の多くは、お湯で淹れたお茶を冷やしたものであり、冷たい水で時間をかけてじっくりと淹れたお茶のことは「水出し緑茶」といいます(1)。
「冷茶」と「水出し緑茶」は、同じ茶葉を使って淹れても味が全く違います。「冷茶」は、冷えているだけで、味はお湯で淹れたお茶と同じになりますので、苦味や渋味が感じられて飲みごたえがあります。一方で「水出し緑茶」は苦味や渋味の成分があまり出てきませんので、うま味の強いお茶になります。
「水出し緑茶」にしたら苦味や渋味以外の成分も出てこないんじゃないの?
お茶にはエピガロカテキン(EGC)とエピガロカテキンガレート(EGCG)が含まれています。これらはともにカテキンの一種ですが、EGCGはEGCに比べて強い苦味と渋味を持っています。
冷水でも1時間ほど茶葉をひたしておけば、うま味成分であるテアニンなどのアミノ酸や比較的穏やかな苦味を感じさせるEGCはお湯で淹れた場合とほぼ同じように出てくる一方、苦味や渋味の主成分であるEGCGやカフェインはあまり出てきません(図1参照)。
そのため、「水出し緑茶」は、うま味成分の量はお湯で淹れたお茶とほとんど変わらないにもかかわらず、苦味や渋味の成分が少なく、うま味を感じやすくなるわけです。
緑茶は淹れ方で異なる生理機能を発揮する!
「冷茶」と「水出し緑茶」では、うま味だけでなく生理機能の面でも違いがあります。
お湯で淹れたお茶に多く含まれるのがEGCGやカフェインですが、EGCGには抗炎症作用が、カフェインには興奮や覚醒を引き起こす効果があります。
そして、冷たい水で淹れた場合でも多く含まれるEGCやテアニンには、社会心理的ストレス(対人関係に起因するストレス)の影響を軽減させる効果が動物試験やヒト介入試験で報告されており(2)、(3)、(4)、EGCはさらに自然免疫能をアップさせる効果も細胞・動物試験や小規模なヒト介入試験で報告されています。(5)、(6)
ところが、EGCはEGCGの比率が高くなるとEGCがもつ自然免疫能をアップさせる効果は弱められてしまいます。また、EGCGやカフェインの量が増えると、テアニンがもつストレスの影響を軽減させる効果が弱められてしまうことが報告されています。
そのため、EGCやテアニンの効果を発揮させたい場合は緑茶をできるだけ冷たい水で淹れるのがおすすめです。EGCGは、10°C前後(冷蔵庫の温度)の冷水で淹れると大きく減ります(図1A)。カフェインは、10°C前後の冷水で淹れると、お湯で淹れた時の半分程度に減り、さらに冷たい0°Cに近い氷水で淹れるとお湯で淹れた時と比べて約80%減らすことができます(図1A、B)。
一方、テアニンは、氷水で淹れても1時間程度の時間をかけてじっくり淹れれば、抽出量は大きく変わりません(図1B)。ストレスの影響を軽減させるテアニンの効果を期待するのであれば、水出しよりさらにカフェインが少なくなる氷水出しの緑茶がオススメです。
「水出し緑茶」による自然免疫能増強の推定メカニズム
ここから少し、生理機能のメカニズムの一例をご説明します(7-8)。
免疫細胞の中には、例えば腸などで異物を食べることで外界の情報を収集し、生体防御機能を高めるマクロファージという細胞がいます。マクロファージの食べる活性(食活性)が低下すると、情報収集不足となり、生体防御機能が低下する場合があります。
細胞や動物試験の結果、水出し緑茶に多く含まれるEGCには、マクロファージの食活性の低下を改善し、生体防御能をアップする可能性があることがわかりました(図2)。ただし、EGCの効果はEGCGがの比率が増えるとうまく発揮されないこともわかっています。(5)
マクロファージの異物を食べる働きが良くなると、生体防御に関わるタンパク質(抗体)を作る能力が改善される可能性があります。病原体がやってくると、まずマクロファージが働き、病原体を食べて情報を収集します(自然免疫)。その情報をリンパ球へ伝達し、病原体に対してより強力な攻撃をしかけます(獲得免疫)。また、リンパ球はしばらくその病原体を覚えているため、再度やってきたときにはすぐに攻撃できます。しかし、マクロファージの異物を食べる働きが悪いとすぐに病原体と戦う準備を整えにくくなります(図4)。
お湯で淹れた緑茶では、EGCだけでなく渋いカテキンEGCGも多く浸出してきます。様々な生理作用をもつEGCGはEGCの作用に拮抗する働きがあるため、EGCの自然免疫機能をアップする効果を弱めてしまいます。そのため、水出し緑茶の方が、EGCGが減るためEGCの自然免疫機能をアップする効果がより期待できます(図4)。
2011年に水出し緑茶を継続飲用して実施したヒト介入試験では、水出し緑茶を継続的に摂取※しておくと、ワクチン接種によるインフルエンザに対する臨戦態勢が有意に長く続く効果が観察されました(9)。しかし、2年後の2013年の人介入試験では有意な効果は得られませんでした。 (10)
※緑茶2.5-3gに水100-150mLを入れて冷蔵庫で1時間静置のものと同等の飲料を、2回/日(朝と昼に1杯ずつ)摂取。
食品の機能性は、基本的に体の調子を整える機能ですので、もともと免疫調節能力が高い人には効果を実感しづらいでしょう。また、様々な環境要因等も影響するため、複数回の検証を行う必要があります。今後、検証症例数が増えることで有効性の有無が明らかとなるでしょう。また、作用メカニズムに関しても分子レベルで解明しなければならないことも多く、メカニズムの解明が進めば、より有効な飲み方などの提案にもつながることが予想されます。
ケルセチンをはじめとするフラボノールも水出し緑茶で摂取できます
日本の緑茶=煎茶の浸出液の色は黄色です。最近、深蒸し緑茶がブームになり、緑茶の浸出液の色は緑色だと思っている人がいますが、緑茶の浸出液の色は本来黄色なのです。緑に見えるのは細かい葉っぱが浮いているためです。浸出液の色が黄色であることが日本の煎茶の特徴です。
なぜ、黄色なのか? それは、日本の緑茶品種は浸出液の色が「金色透明」をよしとして選抜されてきたためです。この黄色はケルセチンをはじめとするフラボノールの色であり、緑茶のフラボノールは冷たい水にもよく浸出する特徴があります。ケルセチンは、抗酸化作用をはじめ多彩な生理活性が期待されており、現在、生活習慣病リスクの低減や認知機能改善効果への有効性が検討されています。今後、介入試験や疫学調査が進展することにより、有効な摂取方法や作用機構が解明されることが期待されています(11)。
ケルセチンといえばタマネギが有名ですが、2015年に北海道で実施された食事調査では、緑茶とタマネギがケルセチンの主要な摂取源となっているという結果が出ています(12)。緑茶は飲料として気軽に摂取できるのがよいですね。
ケルセチンは冷たい水でもお湯でもどちらでも抽出されやすい成分であり、煎茶であれば、どれでもケルセチンの摂取源となりますが、積極的にケルセチンを摂取したい場合のオススメの茶品種は「さえあかり」「さえみどり」「そうふう」です。さらに、玉露や抹茶のように光を遮って栽培している茶はケルセチンが少ないので、光をたくさん受けて栽培された緑茶の方がオススメです。
おわりに
茶葉を使ってお茶を淹れるのは手間だなと思う人もいるかもしれませんが、ちょっと頑張りたい時は頭が冴えるお湯で淹れた緑茶、休息の時は日頃のストレスを解放して抵抗力をアップさせる「水出し緑茶」といったように、うまく飲み分けると良いでしょう。「水出し緑茶」は、茶葉を取り除けば、温めて飲んでも成分は変わりません。
今後の展開
緑茶に含まれる成分はここに紹介されたものだけではありません。それらの様々な成分の性質についても、今後明らかにしていくことが重要だと考えています。また、他の食品との組み合わせ効果も期待されます。農研機構は「美味しく楽しいお茶の時間が健康に繋がる」研究を目指しています。
参考論文等
- JARQ 52(1): 1-6 (2018)
- Pytomedicine 23(12):1365-1374 (2016)
- Biol Pharm Bull 40(6):902-909 (2017)
- J. Clin. Biochem. Nutr. (2017)
- Biosci Biotechnol Biochem. 74(12):2501-2503. 2010
- 茶業研究報告 113: 71-76 (2012)
- 食品と容器、56(9): 578-583(2015) 【PDF:9.3MB】
- Cytotechnology. 66(4): 561-566. 2014
- 農林水産資源を活用した新需要創出プロジェクト(プロジェクト研究成果シリーズ529) (2015)
- 診療と新薬、52(7), 718-726、2015 (2015)
- 食糧 : その科学と技術 (54): 5-18 (2016) 【PDF:1.0MB】
- Nutrients 7(4) , 2345-2358 (2015)