稲発酵粗飼料を利用した交雑種雌牛の肥育技術


[要約]
稲発酵粗飼料を肥育全期間にわたって給与すると、発育成績は良好で枝肉重量も多いが、肉質については、肥育前期にチモシー乾草、中後期に稲わらを給与した対照区が優れる傾向にある。また、稲発酵粗飼料を給与することにより、血漿中のα-トコフェロール含量は対照区に比べ1.5〜2倍程度の高値で推移する。

[キーワード]稲発酵粗飼料、交雑種、肥育、肉用牛、飼料利用

[担当]長野畜試・肉用牛部
[代表連絡先]電話:0263-52-1188
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
  飼料イネの栽培は水田の有している自然環境保全機能を維持しながら、これまでの稲作栽培技術をそのまま利用できるため、水田基盤の維持と自給飼料生産の拡大に有効な飼料作物として位置付けられ、稲発酵粗飼料の生産・利用の大幅な拡大が期待されている。
  そこで、稲発酵粗飼料を用いた交雑種雌牛の肥育試験を実施し、チモシー乾草と稲わらを給与する対照区と発育成績、血液生化学成分、枝肉成績の比較検討を行う。

[成果の内容・特徴]
1. 全期間給与区は稲発酵粗飼料(品種:コシヒカリ)を肥育前期に原物で7kg、中後期に5kg定量給与し、前後期給与区は中期に稲わらを1.5kg定量給与する。対照区では肥育前期にチモシー乾草3kg、中後期に稲わらを1.5kg定量給与し、配合飼料は和牛産肉能力間接検定用飼料を用い、肥育中後期は各区とも飽食状態で飼養する。肥育期間は20ヵ月(前・中期7ヵ月、後期6ヵ月)で、28ヵ月齢の目標体重を760kgに設定し、交雑種雌牛を各区3頭供試した。
2. 配合飼料の摂取量は、全期間給与区が原物で5.2tと前後期給与区、対照区に比べ多い傾向にあり、稲発酵粗飼料は全期間給与区で2.6t、前後期給与区で1.9t必要となる(表1)。
3. 交雑種肥育雌牛9頭の肥育試験開始時体重は平均255kgで各区に差はなく、全期間給与区の終了時体重、肥育期間中の1日増体重(DG)は各々854kg、1.00kg/日で前後期給与区および対照区に比べ発育は良好である。また、他の2区も終了時体重800kg以上で、各区とも順調に発育する(表2)。
4. 稲発酵粗飼料のα-トコフェロール含量は112mg/kgで、チモシー乾草の約15倍、稲わらの約5倍、また、β-カロテン含量は13mg/kgで、チモシー乾草と同程度で稲わらの約12倍である。稲発酵粗飼料を給与することにより血漿中のα-トコフェロール含量は、全期間給与区、前後期給与区とも500μg/dl以上となり、対照区の1.5〜2倍程度の高値である。また、レチノール含量については、対照区で肥育中・後期に、前後期給与区で肥育中期に40IU/dlまで低下したのに対し、全期間給与区では肥育期間中60IU/dl以上で推移する(表3)。
5. 枝肉成績については、稲発酵粗飼料を肥育全期間給与することにより、枝肉重量は増加するが、脂肪交雑、ロース芯面積および肉質等級についてはいずれも対照区が優れる傾向にある(表4)。

[成果の活用面・留意点]
1. 稲発酵粗飼料は交雑種雌牛の肥育に利用できる。
2. 稲発酵粗飼料は飼料成分分析を実施したうえで利用し、発酵品質にも十分注意する。


[具体的データ]

表1 交雑種肥育雌牛の飼料摂取量
表2 交雑種肥育雌牛の発育成績
表3 交雑種肥育雌牛の血漿中αトコフェロール、レチノール含量の推移
表4 交雑種肥育雌牛の枝肉成績

[その他]
研究課題名:稲発酵粗飼料を用いた肉用繁殖雌牛・肥育牛の飼料給与技術の確立
予算区分:交付金プロ(関東飼料イネ)
研究期間:2004〜2008年度
研究担当者:井出忠彦

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