電子タグを利活用した牛の分娩予測


[要約]
温度センサー付き電子タグを用いた胃内温度測定により、従来の直腸温度測定と同様の精度で、繁殖雌牛の分娩予測をすることが出来る。また、電子タグの特性として、瞬時の情報の取得と管理が可能である。

[キーワード]繁殖雌牛、分娩予測、胃内温度、電子タグ、温度センサー

[担当]岐阜畜研・飛騨牛研究部
[代表連絡先]電話:0577-68-2226
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
  電波により情報のやりとりを行うことができる電子タグを畜産の生産現場で利活用するため、温度センサー付電子タグを牛の胃内に投入し情報を管理するシステムを開発し、そこで得られる胃内温度の有用性を検討するため、和牛繁殖雌牛の分娩前の体温変化の察知を試みる。

[成果の内容・特徴]
1. 今回の電子タグシステムでは、温度センサー付電子タグを経口投入した牛を、タグアクセス制御装置+体重計に乗せることで、個体ID、体温、体重データが取得出来る。それらのデータは牛舎内に設置された無線LANアクセスポイントから光ファイバーをとおして事務所のサーバーに送られ管理される(図1)。
2. 分娩予測を目指して温度センサー付き電子タグを用いて、平成17年5月〜平成18年9月に分娩をむかえた黒毛和種繁殖雌牛11頭(のべ18頭)について分娩予定日1週間前から1日3回(朝9:00昼13:00夕17:00)測定を実施した。測定した胃内温度は、従来法の直腸温度と高い相関(0.89±0.09)があり、胃内温度でも分娩前の体温変化を捉えることが可能である(図2)。18頭中13頭で胃内温度、直腸温度ともに低下を確認した。この13頭について、分娩予定日(在胎285日で計算)との差は4.5±4.3日であり、また体温低下から分娩までの時間は23.2±9.1時間である。
3. 今回の電子タグシステムでは、温度センサー付電子タグを投入した牛を、タグアクセス制御装置の前をとおすことで瞬時に体温測定できるため、測定にかかる時間は従来の体温計を用いた時に比べ1/10以下である。
4. 電子タグを胃内に定着させることの影響を体測および血液検査で調査したが、対照区(電子タグ無投入)との差は見られなかった。今回経口投入した11頭において、約2年間電子タグは胃内に定着し続けている。

[成果の活用面・留意点]
1. 胃内温度は飲水による影響を受けるので、測定前の飲水を制限する必要がある。
2. 牛舎でノイズ対策のしていないインバーターファンを使用している場合、電子タグの読み取り性能が低下する。
3. 直腸温度計測で分娩予測を目指した場合でも指摘されているように、分娩前の体温低下は、必ずしも全ての牛で見られるわけではない。
4. 今回の電子タグシステムはプロトタイプであるので、現場に合わせたシステムの改良と低コスト化が必要である。例えば、放牧地の水飲み場の手前に設置出来るようにすることで、今でも難しい放牧牛の採食量の把握など、より高度で省力的な家畜管理への活用が期待される。


[具体的データ]

図1 実証実験システム概説
図2 測定例 (H17.7.10AM 4:00分娩の個体)

[その他]
研究課題名:電子タグの高度利活用技術に関する研究開発
予算区分:公募研究(総務省)
研究期間:2004〜2006年度
研究担当者: 傍島英雄、丸山新、浅野智宏、林登、澤田幹夫、大谷健、酒井謙司(岐阜畜研)、矢島健一、高玉広和、竹内章平(日本電気株式会社)、小川敬昭、小川好一、祝迫敏明、二挺木馨、矢部英一、湯浅直起、小河原正男、昌子訓久、小林幸夫(NECエンジニアリング株式会社)
発表論文等:傍島ら(2005)岐阜畜研報5:35-44

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