バルーンカテーテルの留置による泌乳牛の採尿時における尿路感染防止法


[要約]
バルーンカテーテルを膀胱内に留置して泌乳牛の全尿採取を行う場合、搾乳作業等のために採尿経路を一時的に分離・再接続する必要がある。膀胱から3m以上離れた部位でこの操作を行うことで、尿路感染を抑えられる。

[キーワード]乳牛、全尿採取、バルーンカテーテル、出納試験

[担当]東京農総研・生産技術科
[代表連絡先]電話:0428-31-2171
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  各種栄養素の出納や代謝速度の測定精度を高めるためには、排泄される尿の全量を、糞と完全に分離した状態で、最低でも3日間連続して採取する必要がある。これらの条件を満たし、かつ、特殊な設備を必要としない方法として、膀胱内にバルーンカテーテル(カテーテル)を留置して、それを貯尿容器に接続して採取する方法がある。しかし、ミルキングパーラー(パーラー)で搾乳を行う泌乳牛の場合は、パーラーへの移動時にカテーテルと貯尿容器との接続を切る必要があり、その分離・再接続操作が尿路感染の原因となる危険性が高い。そこで、尿路感染を起こしにくい採尿経路の分離方法を検討する。

[成果の内容・特徴]
1. カテーテル(24Fr、45mL)、採尿チューブ(内径6mm、3m)および採尿袋からなる採尿経路(図1)を形成し、3日間全尿を採取する。カテーテル挿入直後、挿入後3日目、およびカテーテル抜去後1週間目に採取した尿中の細菌数を調べる。
2. 採尿期間中、朝夕2回パーラーへ牛を移動させる際に、カテーテル末端(図1のA)と採尿チューブ近位端(図1のB)をそれぞれ閉鎖した後に接続部(図1のC)を分離した場合、カテーテル挿入後3日目には供試牛(n=5)の40%が尿路感染(尿中細菌数300 CFU/mL以上)を起こし、カテーテル抜去後1週間目においても感染状態は改善されない(表1)。
3. カテーテルと採尿チューブの接続部(図1のC)を防水テープで目張りし、パーラーへの移動時には採尿チューブ末端(図1のD)を閉鎖した後に採尿袋から分離した場合は、カテーテル挿入後3日目およびカテーテル抜去後1週間目のいずれにおいても、供試牛(n=10)に尿路感染は生じない(表1)。膀胱から分離部までが長いことから、分離操作時に採尿チューブ内腔に侵入した細菌は膀胱まで到達できないと考えられる。
4. 採尿袋から分離した採尿チューブは、牛の胴部に装着したゴムバンドに折りたたんで固定することで(図2)、採尿チューブ遠位端が牛床に接触して汚染することを防止できる。

[成果の活用面・留意点]
1. 本法により、カテーテルを留置した泌乳牛を、尿路感染の危険性を高めることなくパーラーで搾乳することが可能になる。カテーテル留置により採尿することで、泌乳牛を用いた栄養素出納試験・代謝試験等を高精度かつ省力的に実施することができる。
2. 膀胱にカテーテルを長時間留置する場合は、挿入時および採尿経路の分離・再接続時には手指・器具・採尿チューブ遠位端等の消毒を徹底するだけでなく、挿入前および抜去後に尿中細菌数の検査を行って尿路感染の既往・発生が無いことを確認することが望ましい。


[具体的データ]

図1 採尿経路の模式図
表1 尿路感染率(%)
図2 採尿袋から分離した採尿チューブを牛体に固定した状態

[その他]
研究課題名:動物質飼料を用いない高泌乳牛のための飼養管理技術の確立
予算区分:都単
研究期間:2005〜2006年度
研究担当者:田村哲生

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