新子宮内注入器による豚胚の非外科的移植


[要約]
新しく開発した子宮内注入器(ミサワ医科工業(株))を用いて胚を移植し、胚を注入する際の移植液量1、2.5、10 mlについて検討した結果、受胎率はそれぞれ80.0%、75.0%、25.0%である。移植液1mlで分娩率は60.0%(3/5)と高値となり、子豚を得られる。

[キーワード]豚胚、非外科的移植、子宮内注入器

[担当]神奈川畜技セ・畜産工学部
[代表連絡先]電話:046-238-4056
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(中小家畜)
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
  養豚業の生産現場で胚移植技術を活用するためには、外科的移植手法ではコストや設備面で問題点が多い。この問題点を解決するために、非外科的移植手法の開発が必要とされる。子宮深部(子宮角)へ移植可能な子宮内注入器を開発し、高受胎率及び多産子数が得られる移植手法を確立することを目的とする。

[成果の内容・特徴]
1. 今回開発した子宮内注入器(ミサワ医科工業(株)、図1)は、胚を移植するための内管と、内管を子宮内へ誘導するための外管の二重構造としたため、容易に子宮深部(子宮角)に胚を注入することが可能となる。外管は子宮頚管を容易に通過できるように人工授精用精液注入器に比べて細く、内管は長く蛇行している子宮角へ押し進められるように長さ1.5m、外径3mm、内径0.8mmとし、適度な弾力性がある。
2. この子宮内注入器を用いて7〜8ヶ月齢の未経産豚に対して胚を移植した結果、表1に示すとおり移植に要した時間(外管挿入時間と内管挿入時間と移植時間の合計)は平均で14.6分である(表1)。
3. 注入器内管の内容量0.75mlに対して、胚を移植液0.2mlと共にカテーテル内に入れ、これを子宮角内に押し流す移植液量を1ml、2.5ml、10mlとして(最後に空気を1ml注入)、それぞれ受胚豚5頭、4頭、4頭に移植した結果、受胎率は80.0%、75.0%、25.0%であり、移植液量が2.5ml以下で良好である(表2)。
4. 移植液1ml、2.5ml、10mlでの受胚豚の流産頭数は、それぞれ1頭(1/5)、3頭(3/4)、1頭(1/4)であり、流産が多い傾向にある(表2)。
5. 移植液1mlで受胚豚3頭が分娩に至り、分娩率は60.0%と良好であり、分娩子豚数はそれぞれ4頭、5頭、10頭である(表3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 開発した子宮内注入器を用いて、注入器内管の先端部を豚の子宮角内に確実に到達させることが重要である。
2. 注入器内管の先端部が子宮角内に到達したら、1mlの移植液で胚を注入することが高受胎率となり子豚を得ることにつながる。
3. 胚移植の他、人工授精器材及び投薬注入器としても応用の可能性がある。


[具体的データ]

図1 開発した子宮内注入器(内管と外管を組み合わせて用いる)
表1 注入器挿入から胚の移植に要した時間
表2 移植液量の違いが受胎に及ぼす影響
表3 移植液量の違いが分娩に及ぼす影響

[その他]
研究課題名:豚胚の非外科的移植技術の高度化に関する研究
予算区分:先端技術を活用した農林水産研究高度化事業
研究期間:2003〜2005年度
研究担当者: 仲澤慶紀・坂上信忠・秋山清・小嶋信雄・前田高弘・御澤弘靖(ミサワ医科工業)・菊地和弘(生物資源研)

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