日日射量と日平均気温、栽植密度に基づく冬どりキャベツの生育モデル


[要約]
日日射量と日平均気温、栽植密度を入力条件とし、乾物生産や結球部への分配率および乾物重増加量あたりの生体重増加量を気温の関数で推定する冬どりキャベツ生育モデルは、地上部乾物重の増加を相対誤差5%以下の適合度でシミュレートできる。

[キーワード]生育モデル、日射量、気温、キャベツ、結球

[担当]野菜茶研・業務用野菜研究チーム
[代表連絡先]電話:059-268-4631
[区分]野菜茶業・野菜栽培生理、共通基盤・農業気象、関東東海北陸農業・野菜
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  近年需要が伸びている業務用契約栽培キャベツでは、定時定量出荷が求められており、計画生産・出荷のために、生育予測技術に対する要請は強い。そのためには、生育、特に結球肥大に及ぼす環境条件の影響の定量的解明が重要である。しかし、ポットで栽培したキャベツは圃場条件下とは大きく異なる肥大特性を示すこと、解体調査に多数の個体が必要であることなどから、環境制御装置を用いた実験は困難で、環境条件の変動が大きい圃場試験結果を用いざるを得ない。そこで、生育モデルを用いた仮説の設定・検証により、キャベツの生育および結球肥大特性の定量的解析を行う。

[成果の内容・特徴]
1. モデルの構造は図1に示すとおり、日乾物生産量は(植物体が遮蔽した日射量)×(日射利用係数)である。
2. 低温の影響を表すために、日射利用係数は個体あたりの積算日射遮蔽量と地上部乾物重の単回帰から求めた値から日平均気温5℃近辺から低減するシグモイド関数で推定する(図1図2 A)。
3. 結球部の肥大に関与する要因として、新たに生産された乾物の結球部への分配率と乾物重増加量あたりの生体重増加量(ΔFresh weight / ΔDry weight 比;ΔF/ΔD比)を定義し、いずれも低温により低減するシグモイド関数で推定する(図1図2 B・C)。なお、パラメータには良好な結球肥大を示した2005年度までの栽培データを用いて調整した値を用いている(表1)。
4. 関数パラメータの調整に用いていない栽培データ(表1)も含めて、モデルの適合性を検討すると、地上部乾物重は実測値と良く適合し(図3A)、結球開始期の窒素栄養不足や球内茎伸長による結球不良時でも、物質生産はほとんど影響を受けていないことが示されている。また、結球部生体重についても、窒素栄養不足などの入力条件以外による生育阻害要因や、球内茎伸長の影響を受ける場合を除けば、地上部乾物重に比べて劣るものの、実測値と良く適合する(図3B)。

[成果の活用面・留意点]
1. 供試品種は「松波」である。
2. 結球開始後の任意の時点の生育データ実測値と予想環境条件を用いたシミュレーションによる収穫予測への利用が可能である。
3. 球内茎伸長は厳しい低温の影響であると考えられるが、その発生と気象条件との定量的関係については未解明である。
4. 適用地域は特に限定されないが、低温期に降水量の少ない東海地域の一般的な栽培条件下でのデータに基づいているため、低温期に降水量の多い北陸地域への適用や極端な多雨・少雨条件や、極端な減肥栽培条件下での適用には注意が必要である。


[具体的データ]

図1.キャベツ生育モデルの構造
図2.各パラメータの日平均気温に対する変動パターン 表1.供試データの作期(定植日)
図3.地上部乾物重(A)と結球部生体重(B)の結球開始期を起点とするシミュレーション値と実測値(2002〜2006年)

[その他]
研究課題名:キャベツ、ねぎ、レタス等の業務用需要に対応する低コスト・安定生産技術の開発
課題ID:211-h
予算区分:基盤研究費
研究期間:2001〜2006年度
研究担当者:岡田邦彦、山崎敬亮(近中四農研)、生駒泰基(九州沖縄農研)、村上健二、相澤証子

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