中山間地向き多収、良質な紫黒糯の新品種候補系統「中部糯114号」


[要約]
「中部糯114号」は温暖地東部では早生の晩に属し、「朝紫」より多収の紫黒糯系統である。中山間部においてアントシアニン含量が高く、品質も良好となるため、中山間部の特産米として、また、新開発の赤色みりん醸造用としての用途が期待される。

[キーワード]イネ、紫黒糯、良質、多収、みりん

[担当]愛知農総試・山間農業研究所・稲作グループ
[代表連絡先]電話:0536-82-2029
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作、作物
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
  山間・中山間地域の水田は規模が小さく、標高差が大きく、気象条件も異なるため、少ない面積を多くの品種で分割しているのが現状である。小ロットでも産地の特性を活かした差別化、高付加価値化が出来る紫黒糯品種を育成すると共に、機能性成分のアントシアニンを利用した新規加工用途開発を平行して進める。

[成果の内容・特徴]
  「中部糯114号」は1996年に強稈、良型の「イ糯413」を母とし、紫黒糯系統の「奥羽糯349号」(後の朝紫)を父として愛知県農業総合試験場山間農業研究所において人工交配を行った組合せ後代から育成された紫黒糯系統である。
  「中部糯114号」は、「朝紫」と比較して次の特徴がある(表1)。
1. 出穂期・成熟期は、ほぼ同じで、育成地では“早生の晩”に属する。
2. 稈長は、ほぼ同じ、穂長はやや長い。穂数はやや多げつの“中間型”である。耐倒伏性は“やや弱”である。
3. 収量性は粒大が大きく、10%程度多収で一般糯品種のヒメノモチとほぼ同等である。
4. いもち病真性抵抗性遺伝子型はPia,Piiと推定され、葉及び穂いもち圃場抵抗性はほぼ同じである。穂発芽性は“難”、障害型耐冷性は“弱”である。
5. 玄米の色は同じ“紫黒”、千粒重は2g程度重く、粒大は“中”である。
6. 消化性は蒸米水分、ブリックス、アミノ酸度とも同等である。消化後ろ液の色調はa*値(小さいほど紫黒色が濃い)は大きいが、AE値(アントシアニン相当値)、TP値(総ポリフェノール量)は、ともに大きい。
平坦部に比べ中山間部の方がa*値が小さく、AE値、TP値は、共に大きくなる(図1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 適応地帯は温暖地域の山間・中山間地域である。
2. 赤飯、お粥、和菓子、日本酒等への利用の他、新規開発の赤色みりんの製造法(特許申請中)による赤色みりん、赤色米酢等の加工用への利用が期待される。
3. 一般品種への混入を防ぐため、一般品種との隔離、専用機械の使用等の注意が必要である。
4. 耐冷性と穂いもち抵抗性が弱いため、冷害及びいもち病常発地への導入は避ける。


[具体的データ]

表1 「中部糯114 号」の特性概要
図1 中部糯114 号の成分と標高(愛知県産業技術研究所食品工業技術センター分析値)

[その他]
研究課題名:みりん用有色米品種の育成と加工適性評価
予算区分:ジーンバンク
研究期間:2003〜2006年度
研究担当者: 坂  紀邦、工藤  悟、城田雅毅、寺島竹彦、加藤恭宏、遠藤征馬、杉浦和彦、大竹敏也、井上正勝

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