FOEASの地下水位制御は大豆の根粒窒素固定、光合成を高めて増収させる


[要約]
新規地下灌漑システム(FOEAS)による地下水位制御により、大豆の出芽苗立ち、光合成が向上するとともに、根粒窒素固定量は大幅に高まる。その結果、地力窒素が乏しい圃場においても増収が期待できる。

[キーワード]ダイズ、FOEAS、根粒窒素固定、光合成、地力窒素

[担当]中央農研・大豆生産安定研究チーム、農工研・農村総合研究部・水田汎用化システム研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8532
[区分]作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作、共通基盤・総合研究(輪作)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
  大豆の安定多収化には持続的な窒素供給を可能とする地力窒素の増大が有効であるが、地力窒素の大幅な向上は水稲の食味を損ねるので、水田輪作体系では地力窒素だけに大きく依存しない大豆の生産技術の構築が求められている。また、大豆の良好な出芽苗立ちは安定生産の基本であるが、土壌水分の乾湿に大きく左右されやすい。そこで新規地下灌漑システム(FOEAS、平成15年度農工研研究成果情報)による地下水位制御によって、大豆の出芽苗立ちの安定化を図るとともに、根粒窒素固定を大きく左右する土壌水分を最適化することにより、根粒窒素固定を最大限に活かした大豆の高位安定生産技術を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 明渠、圃場傾斜化等の排水対策では、無降雨期間の土壌乾燥を簡便に防ぐことができないが、FOEASでは簡易設定により地下水位を一定に自動制御できるので、生育全般にわたって土壌表層の過湿、過乾を緩和して天候による土壌水分変動を抑制できる(図1)。
2. 地下水位制御により出芽期の過湿、過乾の双方が緩和されるため、苗立ち数はFOEASで23.1±2.94 本/m2、傾斜化圃場で16.7±0.79 本/m2(2005年不耕起播種、5反復の平均±標準誤差)となり、出芽・苗立ちが大幅に向上する。
3. FOEASによる土壌水分の安定化により、根系活性の指標である茎基部出液速度(図略)は高く推移し、葉色とみかけの光合成速度(図2)も高い。
4. 全吸収窒素中の根粒固定由来窒素の割合を示す相対ウレイド値は、FOEASでは子実肥大期においても90%近くに達し極めて高く維持されて(図3)、根粒窒素固定量が増加する。
5. 根粒非着生系統En1282の収量が30kg/10a程度しか得られない地力窒素に乏しい圃場においても、FOEASによる土壌水分の安定化によってタチナガハの根粒窒素固定量は大幅に増大した結果、明渠排水区対比で-32cm区は20%増の約400kg/10aに達した(図4、2006年)。以上から、FOEASによる地下水位制御は大豆の高位安定生産に大きく寄与できる。

[成果の活用面・留意点]
1. 関東地域の強粘質灰色低地土における結果であり、地域、土壌が異なると効果が変動する可能性がある。


[具体的データ]

図1 降水量、地下水位および土壌含水率(2006年) 図2 地下水位制御がみかけの光合成速度の推移に及ぼす影響(2006年).縦線は15個体測定の標準誤差.
図3 地下水位制御が根粒窒素固定寄与率(相対ウレイド値)の推移に及ぼす影響(2006年).縦線は3反復の標準誤差. 図4 地下水位制御が大豆の収量に及ぼす影響.縦棒は標準誤差(2005年4反復,2006年3反復).2005年は不耕起・無中耕無培土栽培、2006年は耕起・無中耕無培土栽培.

[その他]
研究課題名: 新規地下水位調節システム(FOEAS)を活用した水田輪換畑における大豆の持続的多収・高品質栽培技術の開発
課題ID:211-c
予算区分:加工プロ、交付金
研究期間:2004〜2006年度
研究担当者: 島田信二、藤森新作(農工研)、金榮厚、若杉晃介(農工研)、中野寛(北農研)、田澤純子、金谷豊、国立卓生、中村卓司(作物研)、中山則和(作物研)、山本亮(作物研)、島村聡(作物研)
発表論文等: 島田ら(2006)日作紀75(別1):98-99、島田(2006)農業技術大系6追28:技30の7の10-25.

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