LAMP法によるイチゴ葉縁退緑病バクテリア様微生物の迅速検出


[要約]
LAMP法を利用して、イチゴ葉縁退緑病の病原バクテリア様微生物のリボソームRNA遺伝子を迅速に検出できる。

[キーワード]イチゴ、葉縁退緑病、“Candidatus Phlomobacter fragariae”、LAMP

[担当]中央農研・病害虫検出同定法研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8930
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(病害)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  イチゴ葉縁退緑病は、昆虫媒介性のバクテリア様微生物(Bacteria-like organism, BLO)“Candidatus Phlomobacter fragariae”を病原とするイチゴの病害で、2004年に本邦で初発生が確認された。感染イチゴからは商品価値のある果実は収穫できず、本病のまん延はイチゴ生産に深刻な被害を生じると考えられる。しかし、本病の国内における媒介昆虫種等の伝染環に関する知見はほとんどなく、早急に解明する必要がある。そこで、特別な装置類を必要とせずに迅速簡易な遺伝子診断が可能なLoop-mediated isothermal amplification(LAMP)法を利用して、媒介昆虫の探索や圃場における病原BLOの動態解明に活用できる有用な迅速検出法を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. プライマー設計支援ソフトウエア「PrimerExplorer V3(富士通)」を用いて、“Ca. P. fragariae”の16S rRNA遺伝子の一部を特異的に増幅できるように設計されたプライマーセット、およびDNA増幅試薬キット(栄研化学)を用いて、63℃、40分間のLAMP反応を行うと、感染イチゴから抽出した粗核酸試料ではDNA増幅を示す蛍光がUV照射下で、あるいは可視光下で白濁が肉眼で観察できる。一方、健全イチゴ試料や陰性対照(蒸留水)では、これらの反応は生じないため、本法はイチゴ葉縁退緑病の診断に利用できる(図1)。
2. 感染試料のLAMP反応産物を電気泳動し、紫外線照射下で観察すると、LAMP法によるDNA増幅に特徴的な梯子状のバンドが確認できる(図2)。
3. 本法では、植物試料由来の核酸試料からのBLO検出の結果が1時間以内に得られ、従来のPCR法(約4時間)と比較してより迅速に検出できる。また検出限界は、粗核酸試料の原液濃度を、1µlあたりに感染イチゴ組織1mgから抽出した粗核酸を含むように調製した場合には1000倍希釈(10-3)であり(図3)、これは従来のPCR法とほぼ同等である。

[成果の活用面・留意点]
1. LAMP法はDNAの増幅率が非常に高く、反応後のチューブの蓋を開けるなどして、増幅産物を開放した場合は、実験系が汚染される危険性が極めて高い。原則的には反応液は開放せず廃棄し、電気泳動による確認等のため止むを得ず開放する場合には、反応を行う実験室と別室で行うなどの汚染防止措置が必要である。
2. 本成果による検出法では、病原バクテリア様微生物と系統学的に近縁な微生物が検出される可能性があるため、本病の診断は病徴観察等と総合して行うこと。


[具体的データ]

図1.LAMP法による“Ca. P. fragariae”の検出 図2.LAMP反応産物の電気泳動像
図3.LAMP法による“Ca. P. fragariae”の検出限界

[その他]
研究課題名:維管束局在性原核微生物による新発生病害の診断技術の開発及び媒介昆虫の探索
課題ID:521-b
予算区分:基盤
研究期間:2006年度
研究担当者:田中穣

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