イノシシによる農業被害が多発する市町村は、樹林が多く市街地が少ない共通の土地利用形態を有する


[要約]
千葉県の85区市町村を土地利用面積割合から類型化すると、イノシシ害は樹林が多く市街地が少ない単一類型で集中発生している。他2類型の一部にも被害が見られ、将来被害が拡大する恐れがある。土地利用による類型化は、鳥獣害対策の広域的検討に役立つ。

[キーワード]鳥獣害、野生動物、イノシシ、GIS、被害予察、クラスター分析

[担当]中央農研・鳥獣害研究サブチーム、千葉県鳥獣害対策研究プロ農業部会(千葉農総研)
[代表連絡先]電話:029-838-8825
[区分]共通基盤・病害虫(虫害)、関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(鳥獣害)
[分類]行政・参考

[背景・ねらい]
  近年、野生動物による農作物被害が深刻化しており、特にイノシシ被害の増加が目立つ。対策の検討に必要な被害発生傾向の分析を、都道府県等の広域レベルで簡便に行うため、一般に入手し易い統計資料を用いて、市町村による被害報告を分析する手法を構築するとともに、最近イノシシ被害が拡大している千葉県において被害発生状況を分析する。

[成果の内容・特徴]
1. 千葉県内の85区市町村について土地利用面積割合を用いたクラスター分類を行うと、4つの類型に区分できる(図1図3)。
2. 千葉県では、1999〜2001年当時と比較して、2002〜2004年にはイノシシによる農業被害が地域、被害量ともに拡大している(図2)。
3. イノシシによる農業被害は、4類型の内、樹林が多く、かつ市街地が少ない類型4で集中的に発生している(図3)。この類型に属する24市町村は、イノシシの生息に適した土地利用形態を持つと考えられる。
4. 類型4に属し、かつ2004年時点で被害報告がない一宮町、睦沢町、長柄町、南房総市千倉町は、前記の理由から被害が急増する可能性があり、対策が望まれる。
5. 類型1と2は、類型4と比較すると樹林が少なく、市街地が多く、稲作(類型1)と畑作(類型2)が盛んな地域であるが、これらの類型に属する区市町村からも一部被害発生及び分布調査にもとづく生息確認の報告があり、イノシシが生息可能な地域である可能性がある。これらの地域においても、イノシシの侵入を監視し、被害が確認された場合早期に駆除を行うなどの対策を検討する必要がある。

[成果の活用面・留意点]
1. 本成果は、市町村からの被害報告と既存の統計資料を用いて行う被害発生傾向の簡便な分析・把握手法であり、より詳細な調査・分析に基づく被害予察が可能となるまでの、暫定的な対策検討に活用されることを想定している。特に、分布の有無と被害発生の有無は区別する必要があるほか、本事例のように被害発生初期と考えられる事例と、発生後期では被害分布などの特徴が変化する可能性がある。
2. 本成果は区市町村を単位として広域的なスケールで行った分析手法であり、詳細スケールで検討した場合、個別の地域では結果が異なる可能性がある。市町村単位での分析・検討と並行して、大字など、より詳細な地域単位における分析も行う必要がある。


[具体的データ]

図1 千葉県内85区市町村を土地利用面積割合から4類型に分類した結果。 図3 区市町村の土地利用面積割合によるクラスター分析の結果と、1999〜2004年の平均被害面積(単位ha)。図左側の数字は図1と共通。★印は2002年現在生息が確認されている市町村。土地利用は環境省「自然環境GIS」の現存植生図による。
図2 イノシシ被害分布拡大の様子。左は1999年と2001年の被害面積の平均値(単位は区市町村内の耕地面積に占める割合:%)。右は同じく2002〜2004年の平均値。耕地面積は1999年度の農業センサス統計(農産物市町村統計)による。

[その他]
研究課題名: 野生鳥獣の行動等の解明による鳥獣害回避技術の開発(中央農研)
農林作物の野生鳥獣被害軽減化技術の開発(千葉県)
課題ID:421-c
予算区分:基盤研究費
研究期間:2006年度
研究担当者: 百瀬浩、植松清次(千葉農総研)、吉井幸子(千葉農総研)、仲谷淳、
吉田保志子、山口恭弘、安西徹郎(千葉農総研)

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