無線ICタグ付きストローによる凍結精液の流通管理


[要約]
和牛凍結精液に無線ICタグを取り付けて管理することにより、凍結精液と精液証明書情報を一体化するとともに、凍結精液1本1本の流通経路を記録し、人工授精された雌牛まで正確にトレースすることが可能になる。

[キーワード]和牛、凍結精液、流通管理、無線ICタグ

[担当]岐阜県畜産研・飛騨牛研究部
[代表連絡先]電話:0577-68-2226
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
和牛の凍結精液が海外へ流出し、国外で和牛の遺伝資源を元に安価で高品質な牛肉が生産され、国内に輸入されるという事例があり、国内畜産業への影響が懸念される。和牛凍結精液の流通管理を厳密化することによって、凍結精液の流出の防止が求められている。
  凍結精液ストロー容器に無線ICタグを取り付けることにより、精液ストロー1本1本を識別できる凍結精液流通管理システムを用いて実証試験を行い、その有効性を検証した。

[成果の内容・特徴]
1. 実証試験に用いた凍結精液流通管理システムは、農林水産省の農業競争力強化対策民間団体事業によって京都大学が開発したものの提供を受けた。
2. 凍結精液のストロー容器に装着する無線ICタグは、長さ53mm、幅約5mmのフィルム状アンテナに0.4mm角のチップが貼り付けられているものである。これをストローに挿入・接着し、綿栓を挿入することによって(図1A)、ICタグ付きストロー容器が製造できる(図1B)。ストローにICタグを挿入・接着する装置も開発されている。
3. ICタグ付きストロー容器は、従来のストロー容器と同様に精液の充填、凍結、人工授精に使用可能である。ICタグ読み取り機(リーダー)によって固有の識別信号(ID)を速やかに読み取り、精液ストロー1本単位で流通管理を行うことができる。IDはストローが液体窒素中にあっても読み取ることができる(図2)。
4. 精液の情報は、ストローのIDに紐付けてネットワーク経由でデータベースに記録される(図3)。これによって精液の証明情報がストローと一体になる。流通過程でストローのIDを読み取ることによって、流通するストローの本数を正確にカウントでき、精液ストロー1本1本に流通情報が紐付く。人工授精の実績は、注入した精液ストローのIDと、精液を注入した雌牛の個体識別番号を紐付けることによって記録する。これには、ICタグリーダーとバーコードリーダーを備えたハンディターミナルを用いることによって、パソコンを用いることなく簡単に登録操作を行うことができる。
5. 2009年度に実施した実証試験の結果は表1の通りである。461本のICタグ付き精液が人工授精に使用されたが、その内、人工授精後にICタグの破損によりストローIDが読み取り不能になったものが4例、人工授精登録に失敗していたものが8例あったが、その他はストロー1本毎の流通・人工授精履歴が正確に記録できた。

[成果の活用面・留意点]
1. システムの操作ミスを防ぐような改良が必要である。また、ICタグが読み取れなくなった場合に、別手段での認証方法を考慮する必要がある。
2. ICタグ付きストローの製造コストは、開発当初より安価にできるようになっているが、現在1本あたり約100円を要する。また、流通団体や人工授精団体の使用する機器も、一団体当たり20万から50万円の費用が必要である。しかし、精液流通管理システム自体は、様々な地域で利用できるよう汎用性の高いものを開発しており、総合的なコストは実用化に向けて改善されてきている。

[具体的データ]
図1:無線ICタグ付きストロー容器 図2:ストロー読み取りの様子
図3:凍結精液流通管理システムの概略図 表1:2009年度実証試験の結果

(岐阜県畜産研)

[その他]
研究課題名:無線ICタグによる凍結精液の管理の実用化実証試験
予算区分:県単
研究期間:2010年度
研究担当者:星野洋一郎、今井 裕(京都大学)、南直治郎(京都大学)

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