集約的酪農地帯ではふん尿を起源とするアンモニアは多くが地域内に沈着する


[要約]
集約酪農地帯中央部を対象とする地域内での乳牛ふん尿に起因するアンモニア発生量に対する沈着量(湿性+乾性)の割合は、湿性沈着量が26%、乾性沈着量が30%、合計56%と推定され、地域で発生したアンモニアの半分以上が同じ地域内に沈着する。

[キーワード]湿性沈着、乾性沈着、アンモニア、家畜ふん尿、集約酪農地帯

[担当]畜産草地研・資源循環・溶脱低減研究草地サブチーム、草地多面的機能研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8611
[区分]畜産草地、共通基盤・土壌肥料、関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
家畜ふん尿に由来する窒素成分の一部はアンモニアとして大気に揮散し、雨水とともに降下する湿性沈着、および微粒子や気体として降下する乾性沈着として再び地表に沈着する。沈着により農耕地には窒素成分が投入されるばかりでなく、自然生態系には窒素負荷が増えることによる富栄養化を通じた様々な影響を与える。集約的酪農地帯におけるこれまでの観測により、湿性沈着、乾性沈着および大気中アンモニア濃度の実態が明らかにされたので、アンモニア発生量に対する沈着量の割合を算定する。

[成果の内容・特徴]
1. 湿性沈着量:栃木県北部に広がる集約酪農地帯の中央部と周辺、対照として県境の森林地帯に観測地点を設置し(図1)、1ヶ月ごとの雨水バルクサンプルを3年間、通年採取し、窒素分析を行い、対照値を差し引き、中央部の年間湿性沈着量を108t(13 kg N ha-1 yr-1)と見積もる。
2. 乾性沈着量:畜草研(那須)の採草地での濃度勾配法による3年間のフラックス観測から収支を求め、対照値を差し引き、年間乾性沈着量を125t(15 kg N ha-1 yr-1)と算出する。ただしこれには粒子状アンモニアは含まれない。
3. 対象地域の特定:上記湿性沈着および、大気中アンモニア濃度を観測した酪農地帯中央部の6地点(図1:A1、A2、H1、H2、S1、S2)を取り囲む集落を対象地域として特定する。この地域を農業センサス2000の集落情報と照らし合わせ、面積8310ha(うち耕地面積2161ha)を得る。
4. アンモニア発生量の推定:この地域の家畜頭数からふん尿窒素発生量を1650t(198 kg N ha-1 yr-1)と見積もる。これに対し、この地域に適切なアンモニア発生係数(揮散率)として25%を想定し、アンモニア発生量を年間413t (50 kg N ha-1 yr-1)と推定する。
5. 地域内循環フローの推定:上記から、集約酪農地帯中央部を対象とする地域内でのアンモニア発生量に対する沈着量(湿性+乾性)の割合を求め、フローを推定する(図2)。この地域のアンモニア発生量に対し、湿性沈着量が26%、乾性沈着量が30%、合計56%と推定される。つまり地域で発生したアンモニアの半分以上が同じ地域内に沈着する。

[成果の活用面・留意点]
1. 今回の見積もりは栃木県北部の集約的酪農地帯での観測に基づくものである。
2. アンモニア発生係数、対照(バックグランド値)の扱い、乾性沈着の見積もり方法を変えた場合、上記の割合は47〜96%の間で変動する()。
3. この地域の代表地点(畜産草地研究所(図1のS2))における年平均気温は12.2℃(1985-2000年の平均)、年間降水量は1561mm(1971-2000年の平均)、平均風速、風向は1.9m/s、北西(2007-2008年の平均値)である。

[具体的データ]
図1 観測地点図(栃木県北部、実線は旧市町村界) 図2 酪農地帯中央部における年間のNフロー模式図

(寳示戸雅之)

[その他]
研究課題名:有機性資源の農地還元促進と窒素溶脱低減を中心とした農業生産活動規範の推進のための土壌管理及び窒素負荷予測技術の開発
中課題整理番号:214q.1
予算区分 :基盤、科研費
研究期間 :2006〜2010年度
研究担当者:寳示戸雅之、松浦庄司、林 健太郎(農環研)
発表論文等:
 1) Hojito M, et.al. (2010) Soil Science and Plant Nutrition 56 : 503-511
 2) Hojito M, et.al. (2010) Jpn.Soc.Atmos.Environ.45 : 166-170
 3) 寳示戸雅之(2011) 農業由来のアンモニア負荷-その環境影響と対策113-136博友社

目次へ戻る