PCR法を利用したコムギ植物体からの黒節病菌検出


[要約]
PCR法によって、ムギ類黒節病菌のhrpZ遺伝子内の特定領域を増幅させることで、病徴が極めて小さいコムギ植物体からでも、本菌を高精度に検出できる。

[キーワード]コムギ、植物体、黒節病菌、hrpZ遺伝子、検出

[担当]三重農研・経営植物工学研究課、循環機能開発研究課、作物研究課
[代表連絡先]電話:0598-42-6354
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(病害)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
コムギ黒節病の発生には、汚染種子による伝染が主因とされているが、汚染種子の元となった植物体における黒節病発病程度と種子の汚染度との関係は明らかにされていない。この原因は、コムギの植物体における黒節病の病徴には様々なものがあり、外観だけで本病か否かを診断することは容易でないためである。そこで、コムギ植物体上の病斑が黒節病か否かを確認できるように、PCR法によって黒節病菌を検出する方法を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. コムギの黒変病徴組織から分離した細菌について、その懸濁液を鋳型に、hrpZIIIプライマーForward: 5’-agctggccgaggaactgatg-3’、Reverse: 5’-aactggtcaagatcctgagc-3’ (Inoue and Takikawa 2005)を用いてPCR反応を行うと、特異的な増幅産物(753bp)を示す菌株が得られる(図1)。このPCRでの検定結果は、幼苗鞘葉接種による病原性検定(鈴木ら 2009)の結果(誤判定2株を除く)と一致する(表1)。すなわち、黒節病菌を高精度に検出できる。
2. コムギの黒変病徴組織から細菌を単離せず、直接、病徴組織から市販キットによりDNAを抽出し、hrpZIIIプライマーを用いたPCRによって黒節病菌を検出できる。この場合、細菌の単離ができない程度の小さい病徴からでも検出が可能である(図2)。

[成果の活用面・留意点]
1. 本法により植物体における黒節病菌感染を精度よく調査でき、選択培地による種子の汚染率調査(2009研究成果情報)と合わせて両者の関係解明に役立てることができる。
2. .ムギ類黒節病菌Pseudomonas syringae pv. japonica と遺伝的に極めて近い菌(P. syringae pv. syringae, pv. aptata, pv pisi, pv lapsa, pv. aceris )では、hrpZIIIプライマーによるPCRで陽性となる。

[具体的データ]
図1 PCRによるhrpZ遺伝子の特異的領域の増幅
図2 発病が軽度のコムギ植物体における黒節病菌の検出

(橋爪不二夫)

[その他]
研究課題名:小麦「あやひかり」の黒節病感染を回避する種子生産技術の開発
予算区分:国補(研究成果実用化推進事業)
研究期間:2009〜2010年度
研究担当者:橋爪不二夫、鈴木啓史、辻朋子、松本憲悟、山川智大、黒田克利

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