清酒および泡盛に向く酒造好適米新品種候補系統「北陸酒203号」


[要約]
水稲「北陸酒203号」は寒冷地南部では早生に属し、高度精米耐性を有する酒造用系統である。製造酒の酒質は、清酒では淡麗、泡盛では軽快で華やかに仕上がる。

[キーワード]イネ、酒米、高度精米耐性、清酒、泡盛、北陸酒203号

[担当]中央農研・低コスト稲育種研究北陸サブチーム
[代表連絡先]電話:025-526-3239
[区分]関東東海北陸農業・北陸・水田作畑作、作物
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
現在、清酒の酒造会社では、各社の個性を生かした製品開発の動きが活発化しており、また、高品質で低コスト生産が可能な栽培特性に優れた酒造好適米への関心が高まっている。一方、現在、泡盛の原料は輸入タイ米で、国産米の利用はほとんど無いが、原料を国内で生産し高品質な泡盛の醸造が可能となれば、販売的にも希少性や製造過程での安全・安心も確保されることから、新たな需要が見込める。そこで、栽培特性が優れ、清酒および泡盛の醸造適性を備えた酒米品種を育成する。

[成果の内容・特徴]
1. 「北陸酒203号」は、栽培特性と醸造適性の両立を目指して、短稈の良食味品種である「どんとこい」と酒米品種「五百万石」を交配した後代から育成された酒造用系統である。
2. 出穂・成熟期は「五百万石」よりやや遅く、育成地では“早生の晩”である(表1)。
3. 「五百万石」に比較して、稈長および穂長は短く、穂数は同程度で、草型は“穂重型”である。耐倒伏性は「五百万石」より強い“強”で、収量性は「五百万石」と同程度である。
4. いもち病真性抵抗性遺伝子はPiiを持つと推定され、圃場抵抗性は、葉いもちは“やや弱”、穂いもちは“中”である。穂発芽性は “やや難”である(表1)。
5. 60%精米時の砕米歩合は「五百万石」より少なく、無効精米歩合は低い(表1)。
6. 清酒の醸造時の純アルコール数量およびアミノ酸度は「たかね錦」と同等で、酒質は淡麗に仕上がる(表2)。
7. 泡盛のメーカーによる仕込みでは供試材料の違いによるアルコール収得量に大きな差はなく(データー省略)、口当たりのソフトな「軽快」で「華やか」な酒となる(図1)

[成果の活用面・留意点]
1. 適応地域は「五百万石」等の熟期の作付が可能で、冷害の危険性の少ない東北中南部、北陸および関東以西である。
2. 清酒では新潟県、泡盛では沖縄県の酒造会社が製品化を予定している。
3. 耐倒伏性が“強”であるが、大豆跡等の地力が高い圃場や極端な多肥栽培では倒伏のおそれがあり、タンパク質含有量の増加による品質低下を招くため、適切な肥培管理を行う。
4. いもち病圃場抵抗性が弱いので、適期防除に努める。
5. 障害型耐冷性が弱いため、冷害の危険のある地域での栽培は避ける。

[具体的データ]
表1 「北陸酒203号」の特性(調査地:新潟県上越市)
表2 清酒の試験醸造結果 図1 泡盛の酒質(2009年 沖縄県農業研究センター)

(三浦清之)

[その他]
研究課題名:直播適性に優れ、実需者ニーズに対応した低コスト業務用水稲品種の育成
課題ID: 311a
予算区分: 基盤、委託プロ(加工プロ4系)
研究期間:1996〜2010年度
研究担当者:三浦清之、笹原英樹、重宗明子、長岡一朗、後藤明俊、上原泰樹、太田久稔、清水博之、福井清美、大槻 寛、小牧有三

目次へ戻る