抗体産生抑制機能をもつ新規マウス・パイエル板T細胞クローンの樹立


[要約]

 β−ラクトグロブリン(BLG)の投与により経口免疫寛容を惹起したマウス・パイエル板に,免疫応答抑制性T細胞群が誘導されることを明らかにし,さらにBLG特異的CD4+T細胞クローンを樹立することに成功した。 それらは抗体産生抑制性の機能を持つ新しいタイプの抑制性T細胞である。


[背景・ねらい]

 アレルギー疾患や各種免疫病の予防・治療方法として経口免疫寛容の応用が期待されている。経口免疫寛容により炎症性T細胞が抑制されるメカニズムは近年明らかになりつつあり、実際にT細胞が引き起こす自己免疫疾患の治療への応用も試みられ始めた。しかし経口免疫寛容による抗体産生抑制のメカニズムは未だ明らかになっていない。抗体産生に抑制性に働く細胞群の性質を知るため、経口免疫寛容の誘導器官である消化管のパイエル板よりβ−ラクトグロブリン(BLG)特異的なCD4+(従来のヘルパーT細胞サブセットに特徴的なCD4分子を表現する)T細胞クローンを樹立し、その機能を明らかにすることを目的とした。

[成果の内容・特徴]

  1. BLGを投与して経口免疫寛容を誘導したマウスのパイエル板より6株のBLG特異的CD4+T細胞クローン6株を樹立した(PP1,PP2,PP3,PP4,PP5,PP6)。 それらはin vitroでの抗体産生を抑制する機能を有している(図1)。
  2. これらのT細胞クローン自身は抗体産生補助活性をほとんど示さない(図2)。
  3. これらのT細胞クローンは産生サイトカインパターンが異なるが、共通して抑制性サイトカインであるインターフェロン(IFN)-γとインターロイキン(IL)-10のメッセージを強く発現している。抗体産生の補助に働くTh2(T helper 2)型のサイトカインである IL-4, IL-5, IL-6の発現は弱い(図3)。
  4. パイエル板へのホーミングレセプターであるα4β7インテグリンを表現している(図4)。そのため、これらCD4+T細胞クローンは生体内を巡った後もパイエル板に回帰し、繰り返しBLGにより刺激を受けることにより機能を持続し、経口免疫寛容状態の維持に寄与する可能性がある。
  5. 上記のことより、樹立T細胞クローンは抗体産生補助機能が低くさらに積極的な抗体産生抑制機能を持つ新規な抑制性T細胞クローンであることがわかった(図5)。

[成果の活用面・留意点]
 
 食物アレルギーなど主に抗体が関与して引き起こされる疾病に対して経口免疫寛容現象を利用するためには、その抗体産生抑制の機構を解明する必要がある。  本研究により新たに樹立された抗体産生抑制性T細胞クローンの性質が明らかとなれば、それらの細胞群を積極的に誘導したり活性化する方策を探ることが可能となる。すなわち、経口免疫寛容を効率よく誘導・持続させる技術が開発されることになり、抗体関与の免疫病を経口免疫寛容の応用により制御する可能性が広がる。


[その他]

  1. Cellular mechanisms of oral tolerance induced by β-lactoglobulin. 26th UJNR proceedings p91-101 (1997). Functions of regulatory T cells induced in Peyer's patches from orally tolerized mice. 10th international congress of immunology abstracts p619 (1998).
  2. A new type of regulatory CD4+ T cells in high-dose oral tolerance derived from Peyer's patches. (submitted)
  3. 経口免疫寛容におけるパイエル板由来抑制性細胞の解析.消化器と免疫34巻 (1999:印刷中)
  4. 経口免疫寛容におけるパイエル板由来調節性細胞の解析.第28回日本免疫学会総会・学術集会講演要旨p150 (1998).