植物由来の黄色色素ケルセチン配糖体の抗変異原性



【要約】

 ケルセチン配糖体には、遺伝子の傷害に伴う突然変異を抑制する作用である抗変異原性が認められる。その配糖体の中では、天然に最も多い3-グルコシドの作用が強く、これは変異原前駆体を変異原物質に変換する活性化酵素の阻害作用によるものであることを明らかにした。一方、4'−グルコシドはMNNG及びあらかじめ活性化したTrp P-1の変異原性を抑制した。

【背景・ねらい】

 野菜にはガン予防効果があることが疫学的に証明され、その効果を裏付ける作用として、野菜の抗変異原性がしばしば取り上げられる。この抗変異原性は、発ガンの第一段階に位置付けられる遺伝子の傷害に伴い発生する突然変異を防ぐ効果であり、野菜に存在する植物繊維やビタミンC、ビタミンE等がこの作用を示す成分として注目されてきた。最近では、これらの成分に加えて、色素成分等としてなじみのあるフラボノイド類が強い効果を示すものとして取り上げられているが、その化学構造と作用メカニズムに関する研究はまだ乏しい。そこで、天然に最も多いフラボノイド成分であるケルセチン配糖体を種々調製して、糖の結合位置と抗変異原作用の関係を解析した。

【成果の内容・特徴】

  1. ケルセチンにアセトブロモグルコースを化学的手法によって結合させて、ケルセチン3−グルコシド、4'−グルコシド、7−グルコシド、3,4'−ジグルコシド、3,7−ジゴルコシド、3,4’,7−トリグルコシドを作製し、試験に用いた(図1)。さらに、市販のケルセチン配糖体であるルチン、ケルシトリンも供試した。

  2. 供試した8種の配糖体の中で、ケルセチン及びその配糖体であるケルセチン3−グルコシド、ルチン(ケルセチン3−ラムノグルコシド)、ケルシトリン(ケルセチン3−ラムノシド)には、活性化酵素によって変異原に変換される物質であるTrp P-1に対する強い抗変異原性が認められた(表1)



  3. この抗変異原性は、活性酵素であるS-9を前述のケルセチン配糖体が阻害することによってもたらされることが明らかになった。

  4. 活性化酵素を必要としない変異原物質であるMNNG(N-メチル-N、-二トロ-N-二卜ロソグアニジン)に対しては、ケルセチン及びケルセチン4'−グルコシドが抗変異原性を示した(表2)。ケルセチン4'−グルコシドはあらかじめ活性化したTrp P-1に対しても抗変異原性を示した。


  5. 傷害を受けた遺伝子を修復することも抗変異原性としてとらえられ、これをバイオアンチミュータゲニシティーと呼ぶが、ここで用いた8種のケルセチン配糖体にはその作用は認められなかった。以上からケルセチン配糖体の抗変異原性作用のメカニズムを図2のように取りまとめた。



【成果の活用面・留意点】

 フラボノイド類の抗変異原性についてはアグリコンでの研究が進んでいる。これは、アグリコンが市販されており、また有機合成も可能であること、腸管で配糖体はアグリコンに分解されると推定されること等による。しかし、最近フラボノイド類が配糖体のまま吸収され血液に存在することが報告されるようになり、また、天然のフラボノイド類はほとんどが配糖体であることから、配糖体を用いた研究成果を蓄積する必要があるので、ケルセチン配糖体以外の配糖体に関する研究が望まれる。

【その他】

  1. タマネギに存在するフラボノイド配糖体の分析及ぴ化学合成による同定、日食工誌、42(2)、100(1995)
  2. ケルセチン等フラボノイド配糖体及びクロロゲン酸の抗変異原性、日食科工学会平成 7年度大会発表