微生物多糖の酵素合成に関する研究



【要約】

 Leuconostoc mesenteroides B-512F(野生林)とその構成的変異株SH3002からデキストランスクラーゼを高純度に精製する新しい方法を確立した。これらの酵素を用いることによって、ショ糖からα-グルカン(デキストラン)を高効率で生産できることか分かった。

【背景・ねらい】

 Leuconostoc mesenteroidesは、スクロース存在下で培養すると、デキストランスクラーゼの働きで、粘性のある多糖デキストランを培地中に蓄積する。本酵素のデキストラン合成機構を明らかにするためにまず、B-512F株の酵素の精製法を確立し、次に基質であるスクロースおよびデキストランが酵素のどのアミノ酸残基に結合するかを化学修飾法により解析した。

【成果の内容・特徴】

  1. L.mesenteroides B-512Fと、その構成変異株SH3002のデキストランスクラーゼの新規精製法を確立した。

  2. 分子量は、SDS-ゲル電気泳動で170kDaであった。DSW-DのSDS-ゲル電気泳動の結果を図1に示す。

  3. スクロース存在下でEDCで修飾すると、失活が抑えられ、デキストラン存在下では、スクラーゼ活性の失活を促進し、トランスフェラーゼ活性の失活をやや抑えた。

  4. DEPによる失活には、スクロースやデキストランの添加効果がなかった。

  5. OPAによる活性の低下は、スクロース、デキストランおよびスクロ一スモノカプロン酸によって抑制された。

  6. スクロースモノカプロン酸でEDCの修飾から保護された領域を、EDANで蛍光ラベルし、Leu-Gln-Glu-Asp-Asn-Val-Val-Val-Glu-Alaと、アミノ酸配列を決めた。これは、Streptococcus mutansの酵素と比べると、活性中心のアスパラギン酸よりも約アミノ酸30〜40残基N-末端側の位置に相当した(表1)

  7. スクロース、デキストラン、またはスクロースモノカプロン酸存在下でOPA修飾した酵素から得たペプチドのアミノ酸配列を決定し、Streptococcusのデキストラン合成酵素のアミノ酸配列と比較した(表2)。活性中心よりN-末端側のペプチド2つ(Peptide E,F)には、スクロースおよびデキストランに結合するリシンが含まれ、活性中心よりC-末端側のペプチド2つ(Peptide C,D)には、デキストランに結合するリシンが含まれることを示唆した。


  8. 以上の結果から、デキストランスクラーゼでは、活性の発現において、カルボキシル基が最も重要でリシン残基が補助的な役割を果たし、ヒスチジン残基はこれらより重要性が低いものと考えられた。

【成果の活用面・留意点】

 野生株と変異株のデキストランスクラーゼの新規精製法を明らかにした。この酵素を用いることで高分子量のα-グルカン合成が高い効率で行えることになった。酵素分子内で基質との結合に関与するアミノ酸残基を明らかにし、機能改変のための有力な情報をもたらすことができた。

【その他】

  1. K.Funane, M.Shiraiwa, K.Hashimoto, E.Ichishima, and M.Kobayashi:An active-site peptide containing the second essential carboxyl group of dextransucrase from Leuconostoc mesenteroides by chemical modifications, Biochemisty, 32, 13696-13702 (1993).
  2. K.Funane, T.Arai, Y.Chiba, K.Hashimoto, E.Ichishima, and M.Kobayashi:Sucrose- and dextran- binding site of dextransucrase analyzed by chemical modification with o-phthalaldehyde, Oyo Toshitsu Kagaku.42, 27-35, (1995).
  3. K.Funane, M.Yamada, M.Shiraiwa, H.Takahara, N.Yamamoto, E.Ichishima, and M.Kobayashi:Aggregated from of dextransucrase form Leuconostoc mesenteroides NRRL B-512F and its constitutive mutant, Biosci.Biotech.Biochem., 59, 776-780 (1995).