β-ラクトグロブリン部分ペプチドのマウスへの経口投与による免疫寛容の誘導


【要約】

 アレルギー予防研究の一環として、マウスに牛乳β−ラクトグロブリンのT細胞認識エピトープに相当するペプチドを投与した。その結果、経口免疫寛容現象を引き起こし、β−ラクトグロブリンに対する免疫応答を抑制することができた。とくに、139−154残基目に相当するペプチドは顕著な免疫応答抑制効果を示す。

【背景・ねらい】

 食物は、本来ヒトにとって異物であっても、生体に傷害を与える免疫反応は通常引き起こさない。それは消化管に経口免疫寛容機構があり過度の免疫反応が抑制されているためと考えられている。しかし、食物アレルギーの場合には、十分その機能が働かないと推測され、アレルゲンにさらすことなくアレルゲンに対して免疫寛容を誘導できれば、最も優れたアレルギーの予防法となると思われる。そこで本研究では、マウス実験系で、これまで明らかにしてきた牛乳β−ラクトグロブリンの主要T細胞認識エピトープ領域に相当する部分ペプチド、3種を経口投与し、その中からもとのタンパク質、β−ラクトグロブリンに対する免疫応答を抑制するペプチドを検索することを目的とした。

【成果の内容・特徴】

  1. β−ラクトグロブリンの42−56、62−76及び139−154残基目に相当する主要T細胞認識領域ペプチドは、β−ラクトグロブリン免疫に先立つ経口投与により、いずれも顕著にβ−ラクトグロブリンに対するT細胞増殖応答を抑制した(図1)

  2. β−ラクトグロブリンの139−154残基目に相当する主要T細胞認識領域ペプチドは、β−ラクトグロブリン免疫に先立つ経口投与により、β−ラクトグロブリンに対する抗体産生応答を顕著に抑制した(図2)。このとき、産生抗体のサブクラス分析結果(表1)によれば、ヘルパーT細胞は、IgG2a抗体産生の補助に働くTh1タイプ、IgG1抗体産生の補助に働くTh2タイプともに抑制されていると推定された。



  3. 以上のことから、β−ラクトグロブリンの139−154残基目に相当する部分ペプチドは、経口投与により、β−ラクトグロブリンに対する免疫寛容を有効に誘導できることが明らかになった。

【成果の活用面・留意】

 T細胞認識エピトープペプチドを経口投与することにより、もとのタンパク質に対する免疫応答を顕著に抑制できることを示した。従って、この技術はヒト食物アレルギーの予防・治療にも応用可能である。ただし、β−ラクトグロブリンをはじめとして、各種食物アレルゲンタンパク質について、アレルギー患者のT細胞認識エピトープを解明することが今後の問題として残されている。また、他のアレルゲンやヒトでの応用を考えるとき、一つのタンパク質に複数ある主要T細胞認識エピトープペプチドが、本研究のように同等な効果を示すとは限らないこと、ペプチドの組み合わせによる協同・相乗作用の可能性や、効果的な投与量にも留意する必要がある。

【その他】

  1. 水町ら「マウスに経口投与した、β-ラクトグロブリンT細胞エピトープペプチドの免疫応答抑制効果」1996年度日農化大会講要 p.186, 1996.3.
  2. Kurisaki, J., et al., Immunosuppressive effects of epitope peptides of β-lactoglobulin orally administered to mice, Proc. 8th AAAP Animal Sci. Congr., vol.2, 320-321, 1996.
  3. Mizumachi, K., et al., Oral tolerance induced in mice by T cell epitope peptides of β-lactoglobulin, 9th Intern. Congr. Mucosal Immunol., 1997.1.
  4. 水町ら「β-ラクトグロブリンT細胞エピトープペプチド139-154による経口免疫寛容の誘導」1997年度日農化大会, 1997.4.
  5. Mizumachi, K., et al., Suppression of immune response to β-lactoglobulin by oral administration of major T cell epitope peptides in mice, 16th Intern. Congr. Nutr., 1997.7.