冷凍耐性パン酵母の分子育種


[要約]
冷凍生地製パン法に利用価値の高い冷凍耐性パン酵母の育種を遺伝子組換え手法により行った。実用パン酵母において、冷凍耐性に関与するトレハロースの分解酵素の遺伝子破壊を行ったところ、細胞内トレハロース蓄積量が増加し、冷凍耐性能が向上した。

[背景・ねらい] 
冷凍生地製パン法は労働力の削減、新鮮パンの提供に有効な革新的な技術である。冷凍生地製パン法に適する冷凍耐性酵母の育種を試みた。冷凍耐性に関与すると考えられる細胞内トレハロースに着目し、トレハロース分解酵素である2種のトレハラーゼ遺伝子(中性トレハラーゼ;NTH1、酸性トレハラーゼ;ATH1)の破壊を行った。各々の遺伝子破壊株および二重破壊株について、細胞内トレハロース蓄積量および冷凍生地製パン法による評価を行った。
  1. NTH1およびATH1をクローン化し、選択標識として遺伝子内部にURA3遺伝子を挿入し、遺伝子破壊用のDNA断片を調製した。得られた断片を用いて実用パン酵母系統一倍体株(ura3)を形質転換し、遺伝子破壊株を得た。さらに、接合を行い二倍体株を構築した(図.1)。  
  2. NTH1遺伝子破壊株にATH1遺伝子破壊を行い、NTH1 ATH1二重破壊株を構築した(図.1)。  
  3. 発酵過程における細胞内トレハロース蓄積量を調べたところ、NTH1破壊株(T154株)、ATH1破壊株(A318株)、およびNTH1 ATH1破壊株(AT418株)は、野生株(T118株)と比較してトレハロース蓄積量が増加していた。しかし、AT418株については野生株と比較して冷凍耐性能が向上していたものの、各々単独で遺伝子破壊した場合に比較して、二重破壊による新たな効果は観察されなかった(図.2)。  
  4. 冷凍生地製パン法による評価を行ったところ、T154株、A318株、AT418株は野生株(T118株)を用いた場合に比較して、冷凍後(一週間)の製パン性が改善されていることが明らかとなった(図.3)。
[成果の活用面・留意面]
遺伝子組換え技術を応用した食品のガイドライン等に従った評価に留意する必要がある。