国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

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研究資料
平成29年5月26日
農研機構 農業環境変動研究センター

2016年夏季の農業気象(高温に関する指標)

はじめに

近年、夏季の高温による農作物の被害が多発しています。ここでは、水稲の生育に影響を与える 2016 年夏季の農業気象の概況を整理しました。具体的には、猛暑日と熱帯夜、ならびに水稲の登熟期間の平均気温の地域的な特徴を示し、気象データに基づく穂温の推定結果についても紹介します。

概要

1.1km メッシュの気温分布 6)注1)を使用した解析によると、2016 年の猛暑日(日最高気温 35 ℃以上)の記録回数は、1994 年以降の 23 年間で東日本が 19 番目、西日本が 5 番目の順位でした。また熱帯夜(日最低気温 25 ℃以上)の記録回数は、東日本が 19 番目、西日本が 8 番目の順位で、東日本では猛暑日・熱帯夜とも過去 23 年間の平均記録回数を下回りました。

2.登熟前半の平均気温が 26 ℃を超えると、品質の低下リスクが増加します。出穂日から 20 日間(登熟前半)の平均気温が 26 ℃を超える地域は、関東、北陸以西の標高が低い平坦地に広く分布していましたが、28℃以上の高温の地域は一部に限られました。

3.8 月の平均穂温(推定値)は全国的に平年並み~平年よりやや高く、九州では猛暑年の 2010 年や 2013 年と同程度かそれ以上の高さだったことが、穂温モデルによる解析で示されました。また水稲の登熟期にあたる 8 月後半から 9 月上旬の平均穂温(推定値)も、全国的に平年より高く推移しました。

(注1) アメダス地点の日最高気温と日最低気温の定義は年代によって変化し、そのままでは長期の気候変動解析には利用できません。本解析では、時別の気温観測データを用いて各地点の日平均/日最高/日最低気温を算定し、それらのデータに基づき長期解析用の1kmメッシュの気温分布を算定しました。前年度までに公表した資料(「2013年夏季の農業気象」から「2015年度夏季の農業気象」まで)でも、同様な方法で作成した1kmメッシュの気温分布を利用しています。

内容

1.猛暑日と熱帯夜

2016 年の猛暑日(日最高気温 35 ℃以上)の記録回数は、夏季の高温化が顕著になった 1994 年以降の 23 年間で、東日本が 19 番目、西日本が 5 番目の順位でした。また熱帯夜(日最低気温 25 ℃以上)の記録回数は、東日本が 19 番目、西日本が 8 番目の順位でした。猛暑日と熱帯夜の記録日数は過去 37 年間( 1978 年以降)で増加傾向にあり、猛暑日は 1994 年(特に西日本)、熱帯夜は 2010 年(特に東日本)がそれぞれ最多となっています(図1)。2016 年は 6~9 月を通して全国的に気温が平年より高めでしたが2) 3)、東日本では 7 月後半に一時的に低温となり2)、その影響もあって猛暑日・熱帯夜とも過去 23 年間の平均記録回数を下回りました(図1)。

次に猛暑日と熱帯夜の発生程度を表す日中と夜間の高温指標1) を用いて、それらの分布の特徴を調べました(図2)。2016 年は、関東内陸(埼玉県と群馬県、栃木県の県境)、東海の平野部(愛知県と岐阜県の県境付近)、近畿の一部(大阪府と京都府)ならびに九州北西部(福岡県、佐賀県、熊本県の平野部)に猛暑日の発生が認められましたが、関東内陸と東海の平野部における猛暑日の発生頻度は、2000 年以降では低い方でした。熱帯夜については、関東地方の沿岸部、東海、近畿の平野部、九州北西部や瀬戸内の一部に、発生頻度がやや高い地域が分布していました(図2)。

2.登熟期間の平均気温

出穂日から 20 日間(登熟前半)の平均気温が 26 ℃を超えると、水稲の白未熟粒の発生が増大し、品質の低下リスクが生じるとされています4)。2016 年はそのような地域が関東、北陸以西の標高が低い平坦地に広く分布していました(図3)。この分布は 2013 年と類似していて 5)、7 月下旬~8 月の気温の推移が 2013 年と似ていたことを反映しています。ただし関東と北陸地方に関しては、2013 年よりはやや低めで、28 ℃以上の高温の地域は東海以西の一部に限られました。

3.日中( 10 ~ 12 時)における推定穂温

2016 年 8 月平均の日中(10~12 時)における推定穂温は、全国的に平年並み~平年よりやや高めで、2015 年と比較すると全地域で高くなっています。特に九州では猛暑年の 2010 年や 2013 年と同程度かそれ以上の高さであったと算定されました(図4上)。また水稲の登熟期にあたる 8 月後半から 9 月上旬の平均穂温も、全国的に平年より高く、2010 年ほどではないものの、2013 年と同程度かそれ以上の高さであったと推定されます(図4下)。

引用文献

1) Ishigooka Y., Kuwagata T., Mishimori M., Hasegawa T., Ohno H. (2011) Spatial characterization of recent hot summers in Japan with agro-climatic indices related to rice production, J. Agric. Meteorol., 67(4): 209-224. https://www.jstage.jst.go.jp/article/agrmet/67/4/67_67.4.5/_article/-char/ja/

2) 気象庁(2016)夏(6~8月)の天候. http://www.jma.go.jp/jma/press/1609/01c/tenko160608.html

3) 気象庁(2016)9月の天候. http://www.jma.go.jp/jma/press/1610/03a/tenko1609.html

4) 森田 敏 (2008) イネの高温登熟障害の克服に向けて.日本作物学会紀事, 77(1): 11-12. http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010751412

5) 独立行政法人農業環境技術研究所(2014)2013年夏季の農業気象(高温に関する指標).研究資料,http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/agromet/2013.html

6) 清野 豁 (1993) アメダスデータのメッシュ化について.農業気象,48(4): 379-383. https://www.jstage.jst.go.jp/article/agrmet1943/48/4/48_4_379/_article/-char/ja/

7) Yoshimoto, M., Fukuoka M., Hasegawa T., Utsumi M., Ishigooka Y., and Kuwagata T. (2011) Integrated micrometeorology model for panicle and canopy temperature (IM2PACT) for rice heat stress studies under climate change, J. Agric. Meteorol., 67: 233-247. https://www.jstage.jst.go.jp/article/agrmet/67/4/67_67.4.8/_article/-char/ja/

担当研究者

農研機構 農業環境変動研究センター 気候変動対応研究領域

桑形 恒男
石郷岡康史
吉本真由美
西森 基貴

農研機構 東北農業研究センター 生産環境研究領域

長谷川利拡

問い合わせ先

代表研究者:

農研機構 農業環境変動研究センター 気候変動対応研究領域

作物温暖化応答ユニット長  桑形 恒男
TEL 029-838-8202

広報担当者:

農研機構 農業環境変動研究センター

広報プランナー  大浦 典子
TEL 029-838-8191
電子メール niaes_kouhou@ml.affrc.go.jp

日最高気温が35度以上になった回数と日最低気温が25℃以上になった回数を東日本と西日本に分けて表示(グラフ)

図1.日最高気温が 35 ℃以上になった回数(左図)と日最低気温が 25 ℃以上になった回数(右図)の年々変化 ( 1978 - 2016 年の過去 38 年間)

1981 - 2000 年の 20 年平均値を 100 とした時の相対値。1km メッシュの気温分布 6) (長期の気候変動解析用に作成(注1))に基づき算定。ここで、東日本は中部地方より東の地域に対応し、西日本は近畿地方より西の地域が対応する(ただし北海道と沖縄は含まず)。

(全国マップ)
(全国マップ)

図2.日中の高温指標 HD_x35(℃×day)(上図)と夜間の高温指標 HD_n25(℃×day)(下図)の分布(2016 年) 1 km メッシュの気温分布 6)注1)に基づき算定。

2つの高温指標は次式で定義され 1)、それぞれ猛暑日と熱帯夜の発生程度を表している。

HD_x35(℃×day)= ∑[max(Tmax-35, 0)]

:日最高気温 Tmax が 35 ℃以上の日(猛暑日)の気温超過量を毎日積算する。

HD_n25(℃×day)= ∑[max(Tmin-25, 0)]

:日最低気温 Tmin が 25 ℃以上の日(熱帯夜)の気温超過量を毎日積算する。

過去 25 年間における日中と夜間の高温指標の分布 (1992~2016年) を、参考資料として 図A1 および 図A2 に示した。

(全国マップ)

図3.水稲の出穂日から 20 日間の平均気温分布(2016年)

1 km メッシュの気温分布 6)注1) を使用し、出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得。

過去 25 年間における水稲の出穂日から 20 日間の平均気温分布(1992~2016 年)を、参考資料として 図A3 に示した。

48の気象台(旭川、札幌、・・・、鹿児島、宮崎)の気象データをもとにしたグラフ

図4.8 月ならびに 8/16-9/10 における、全国各地の日中(10~12 時)の平均穂温の推定値の分布

出穂・開花期においては、10~12時は開花時刻にほぼ対応する。
2016 年と 2010、2013、2015 年の結果、ならびに 1981 - 2010 年の 30 年間の平均値。各気象台地点の気象データと穂温モデル 7) より算定。

(全国メッシュマップ25枚)

図A1.過去25年間における日中の高温指標 HD_x35 (℃×day) の分布(1992~2016年)

図A1 高解像度ファイル(3200px×2400px、0.9MB)

(全国メッシュマップ25枚)

図A2.過去25年間における夜間の高温指標 HD_n25 (℃×day) の分布(1992~2016年)

図A2 高解像度ファイル(3200px×2400px、1.0MB)

(全国メッシュマップ25枚)

図A3.過去25年間における水稲の出穂日から20日間の平均気温分布(1992~2016年)

出穂日は作柄表示地帯別に、農林水産省統計資料から取得した。

図A3 高解像度ファイル(3200px×2400px、1.7MB)

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