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転炉スラグを用いた土壌pH矯正による土壌伝染性フザリウム病の被害軽減

[要約]

転炉スラグを原料とした石灰肥料を施用して土壌pHを矯正すると土壌伝染性フザリウム病の被害が軽減し、土壌pH7.5前後までは微量要素欠乏による生育の影響は見られない。また、耐病性品種の利用や太陽熱消毒との併用も可能である。

[キーワード]

転炉スラグ、土壌伝染性フザリウム病、土壌pH、被害軽減

[担当]

環境保全型農業システム・環境保全型畑作

[代表連絡先]

電話019-643-3524

[研究所名]

東北農業研究センター・生産環境研究領域

[分類]

普及成果情報

[背景・ねらい]

土壌伝染性フザリウム病は120種以上の作物に発生することが知られており、各種作物に広く適用が可能な新たな防除技術の開発が求められている。本病は、土壌pHが高くなるにつれて被害が減少する傾向があることが既に報告されているが、従来使用されてきた消石灰、炭酸カルシウム等の石灰肥料で土壌pHを高めに矯正すると微量要素欠乏症が引き起こされる場合があり、効果的な被害軽減対策とはなっていない。そこで、微量要素を豊富に含む転炉スラグを原料とする石灰肥料で土壌pHを矯正し、微量要素欠乏による生育への影響が生じず、土壌病害の被害を軽減する技術を開発する。

[成果の内容・特徴]

  1. 転炉スラグで土壌pHを矯正すると、各種作物に発生するフザリウム病の発病度が低下し被害が軽減される(図1)。pH7.5程度の矯正であれば、微量要素欠乏による生育の影響は見られない(表1)。
  2. レタス根腐病やイチゴ萎黄病において、品種の耐病性が異なる場合でも土壌pH矯正による被害軽減効果は認められる。また、太陽熱消毒との併用も可能である(図1)。
  3. 細菌性病害であるトマト青枯病に対しても被害軽減効果がある一方で、バーティシリウム属菌によるナス半身萎凋病については被害が助長される事例がある(図1)。
  4. 転炉スラグを土壌施用してもフザリウム属菌の生存には影響しない(図3)。したがって、被害軽減機構は殺菌効果によるものではないと考えられる。

[普及のための参考情報]

  1. 普及対象:野菜生産者
  2. 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:東北地域を中心とした土壌伝染性フザリウム病発生地域に50ha
  3. その他:土壌pH矯正手法だけを導入するのでは十分な被害軽減効果が得られない場合がある。そこで、研究成果集に記載されている事項を参考にしながら、品種の耐病性の強弱、前年の発病程度、他の防除技術との併用、土壌診断に基づく施肥・栽培体系を踏まえて総合防除体系を構築する。転炉スラグを10a当たり2t施用する場合、資材費は約6万円程度であり、3〜5年程度は土壌pHが維持される。一方、例えばクロルピクリン剤による土壌消毒は1回当たり4〜10万円であり、毎年処理する必要がある。

[具体的データ]

(門田育生、森本 晶、永坂 厚、今ア伊織)

[その他]

中課題名
寒冷地の畑・野菜作における省資源・環境保全型生産技術体系の開発
中課題番号
153a1
予算区分
競争的資金(農食事業)
研究期間
2012〜2014年度
研究担当者
門田育生、森本晶、永坂厚、今ア伊織、後藤逸男(東京農大)、大島宏行(東京農大)、岩間俊太(青森農総研)、倉内賢一(青森農総研)、清藤文仁(青森農総研)、米村由美子(青森農総研)、谷川法聖(青森農総研)、岩舘康哉(岩手農研)、大友令史(岩手農研)、冨永朋之(岩手農研)、菅広和(岩手農研)、小山田早希(岩手農研)、関根崇行(宮城農園研)、大場淳司(宮城農園研)、辻英明(宮城農園研)、玉手英行(宮城農園研)、村主栄一(宮城農園研)、宍戸邦明(福島農総セ)、常盤秀夫(福島農総セ)、荒川昭弘(福島農総セ)、山田真孝(福島農総セ)、畑有季(福島農総セ)
発表論文等
1)農研機構(2015)「転炉スラグによる土壌pH矯正を核としたフザリウム性土壌病害の耕種的防除技術の開発」研究成果集 http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/tarc/material/056110.html
2)岩間ら(2014)北日本病虫研報、65:85-92