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放射冷却による気温低下量には無風及び弱風の継続時間が重要である

[要約]

放射冷却による夜間の気温低下量を見積もる際の風の強弱を表す指標には、既往研究で用いられてきた平均風速よりも、無風および弱風の継続時間を用いることが望ましい。

[キーワード]

放射冷却、圃場、気象観測、重回帰分析

[担当]

気候変動対応・気象災害リスク低減

[代表連絡先]

電話029-838-7389

[研究所名]

東北農業研究センター・生産環境研究領域

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

地表面における夜間の気温低下量を支配する気象要素を把握することは、農作物の凍霜害や寒害対策の点で重要である。夜間の著しい気温低下は、強い放射冷却と無風および弱風(以下、弱風)によってもたらされる。既往研究では、風の状態を表す指標として平均風速を用いてきた。しかし、一晩の間で風速の強弱差が大きい場合、平均風速は風の状態を表す指標として必ずしも適切とは言えない。そこで本研究では、風の状態を表す新たな指標として弱風の継続時間に着目し、夜間の気温低下量を支配する気象要素との関係を検証する。

[成果の内容・特徴]

  1. 積算正味放射量(一夜間における正味放射量の積算値;MJ/平方メートル)、弱風積算時間(一夜間における地上風速1.5 m/s以下の時間の積算値;hour)および積雪深(一夜間における積雪深の平均値;cm)の各気象要素を説明変数として、夜間冷却量(「日の入り30分前の地上気温」−「一夜間における地上気温の最低値」;度C)について重回帰分析を行うと、夜間冷却量に対し積算正味放射量と弱風積算時間が有意に寄与している(表1)。
  2. 夜間冷却量と積算正味放射量の相関係数を求めると、弱風積算時間8h以上の階級 に加えて、弱風積算時間4h以上8h未満の階級においても高い相関が認められる(表2)。
  3. 弱風積算時間4h以上8h未満の階級における夜間冷却量が、弱風積算時間8h以上の階級並に大きい日もある(図1)。このような日には、一晩において風が強い時間帯と弱い時間帯があり、風が弱い時間帯に著しい気温低下が生じる傾向がみられる。
  4. 一晩の間に弱風が少なくとも4時間程度続いた場合には、夜間を通して静穏な日と同様に、地表面の放射冷却による夜間の著しい気温低下がもたらされる。
  5. 夜間冷却量と積算正味放射量の相関係数には季節性がみられ、冬季および春季における相関係数は他の季節よりも低い(図1および表2)。その要因として、西高東低の気圧配置による寒気移流や、発達した低気圧および前線等による暖気および寒気移流の影響が考えられる。

[成果の活用面・留意点]

  1. 測定値は東北農研露場の過去5年間の気象観測値(10分値)を用い、一夜間は日の入り30分前から日の出までの時間帯とする。弱風の閾値(地上風速1.5 m/s)は先行研究に基づく。
  2. 観測地点は畑地の中に位置する裸地面であるが、冬季は周辺地域を含め雪面となる。
  3. 放射冷却量と積雪深の間に有意性がみられなかった原因として、対象地域における積雪深が浅かった(約50 cm以下)ことが考えられる。
  4. 夜間冷却量と積算正味放射量の相関係数にみられた季節性は、気温低下量の推定を季節ごとに行うことの重要性を示すものであり、秋季から春季における気温低下量の予測精度の向上は、農作物の凍霜害の予測・予防に役立つ可能性がある。

[具体的データ]

(紺野祥平)

[その他]

中課題名
気象災害リスク低減に向けた栽培管理支援システムの構築
中課題番号
210a3
予算区分
交付金、その他外部資金(気候変動適応研究推進)
研究期間
2010〜2014年度
研究担当者
大久保さゆり、紺野祥平、菅野洋光
発表論文等
紺野ら(2015)天気、62(2):97-103