農研機構東北農業研究センター(東北研)では、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県との共同研究により、イチゴ新品種「夏のしずく」を育成しました。「夏のしずく」は、端境期である夏秋期に収穫できる四季成り性で、東北地方や北海道などの寒冷地や高冷地が栽培適地とされる品種です。そこで11月2日に開催した令和3年度第1回連携推進ツアーでは、夏秋どりイチゴ栽培に取り組んでおられる(株)リアスターファームを訪問し、栽培施設を視察しました。また、同社代表取締役もメンバーの一人である生産者のグループ「陸前高田食と農の森」を訪問し、農業の現状や研究機関への要望等について意見交換しました。
(株)リアスターファームは、陸前高田市、大船渡市、宮古市で夏秋どりイチゴの栽培に取り組まれています。今回は、栽培面積が一番広い大船渡市の施設を訪問し、ハウス内を視察させていただきました。2019年にハウスを整備されて以降、現在5棟のハウスがあり、総面積1ha弱で年間20tの夏秋どりイチゴを生産されています。栽培品種は「なつあかり(東北研育成)」、「信大BS8-9」、「夏の輝(農研機構九沖研育成)」です。県内外の洋菓子店等と直接取引されており、品薄になる夏秋期のニーズは高く、高値でも引き合いがあるということでした。また、東北研らが育成した新品種「夏のしずく」も試験的に栽培されており、栽培の手応えや洋菓子店での評価等もご教示いただきました。ハウスには地元で調達した木材が使用され、資材の輸送費等を含め比較的安価に建設できるとのことでした。三陸沿岸地域は夏期冷涼で冬期暖かく、夏秋どりだけでなくイチゴの周年栽培の適地と考えられ、この地域の基幹産業にするために担い手の育成にも力を入れておられました。
次に「陸前高田食と農の森」のメンバーのみなさんと意見交換をさせていただきました。「陸前高田食と農の森」は、2019年に発足した45歳以下の生産者によるグループで、会員には県外からの移住者や新規就農者も多く、現在11名で活動されています。陸前高田市内の土壌は均一ではなく作付け品目も多岐にわたり、生産者同士の横のつながりが希薄だったことから、情報共有のために集まったことが活動のきっかけだそうです。また、生産よりもむしろ販売の難しさを痛感されており、市役所内での販売会や、ふるさと納税、農業体験等を通じ、生産するだけではなくその後の「食」にも力を入れておられました。研究機関へは、収量が確保でき病気に強いだけではなく、地域の特性にマッチした品種を開発してほしいという要望も受けました。その後、会員の方の圃場(軍見洞農園)を視察させていただきました。主に水稲を作付けされ、近接するハウスではトマト、キュウリ、レタスを栽培されていました。東日本大震災では津波でこれらすべて被害を受けた上、ご本人も命からがら逃げて助かった、というような状況だったそうです。10年の歳月をかけてようやく復興のめどが立ってきたそうです。
農業者の高齢化が問題となる中、地域を活性化するために奮闘している若い生産者の皆さんにエールを送るとともに、彼らの力になる研究機関でありたいと思います。
夏秋どりイチゴ栽培ハウス
|
ハウス内での意見交換
|
夏のしずく
|
ハウス内の様子
|
ハウス内の環境制御システム
|
「陸前高田食と農の森」との意見交換会
|
軍見洞農園 圃場見学
|
ハウス内のレタス栽培
|