プレスリリース
トルコギキョウの低コスト冬季計画生産マニュアルを作成

- 冬も国産トルコギキョウを手ごろな価格で安定供給 -

情報公開日:2011年5月18日 (水曜日)

ポイント

  • 主要花きであるトルコギキョウの冬季生産マニュアルを初めて作成しました。
  • トルコギキョウの生理・生態の理解に基づいた技術の解説と栽培の手順を示しています。
  • マニュアルの普及によって冬季の国内生産量が増加し、手ごろな価格で消費者に供給できるようになります。

概要

農研機構花き研究所は、「トルコギキョウの低コスト冬季計画生産の考え方と基本マニュアル」をホームページに公表しました。

マニュアルはトルコギキョウの開花特性や個別技術の解説の他、実証栽培に基づいた作業内容が分かりやすく示されています。

これまで1月から3月は生産量が少なく高価格なため、輸入により不足分を補充する状態でしたが、マニュアルの普及によって冬季も安定生産できるようになり、国産トルコギキョウの消費拡大が期待できます。

予算:農林水産省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」


詳細情報

背景と経緯

トルコギキョウは北アメリカ大陸原産ですが、日本で育種が進められた結果、多様な花色と花型が生まれ、我が国でも需要が拡大して現在は生産額5位の主要切り花となっています。しかし、冬の流通量は夏の3割以下と少なく、周年安定生産体制は確立されているとはいません。冬季出荷の作型は開花遅延や開花障害が発生しやすく計画生産が困難なうえ、夜温を15~18°Cで加温するので生産コストが高くなっています。一方、近年東南アジアからの輸入が1~3月を中心に増加しています。国内産地の国際競争力を高め、消費者に手頃な価格で切り花を供給するために、冬季に低コストで確実にトルコギキョウを生産する技術の普及が望まれています。

そこで花き研究所では、トルコギキョウの花芽分化や発達に対する温度や光の影響を明らかにし、平成20年から22年まで茨城県、広島県および熊本県ならびに福岡県花卉農業協同組合と共同研究を行い、個別の栽培技術の開発と技術の体系化および実証を行いました。その成果を「トルコギキョウの低コスト冬季計画生産の考え方と基本マニュアル(第1版)」としてとりまとめて公表しました。

マニュアルの内容・意義

トルコギキョウの低コスト計画生産の考え方として、冬季開花の作型では花芽分化と発達を促進する栽培管理が必須であること、花芽発達のためには光合成を促進するとともに、同化した糖を花芽の発達に有効利用することが重要であることを示しました。

冬季開花の作型でポイントとなる個別技術要素は、以下の4つがあげられます。

  • 本葉3対の大苗を定植する(図1)。(慣行 本葉2対)
    効果:ほ場での栽培期間が最大約50日短縮できるため、暖房コストを削減できる。
  • 昼間温度を上げ(30°C)、夜間は低温管理する(10°C)(図2)。
    (慣行 昼25°C/夜15~18°C)
    効果:光合成と花芽分化促進に有効。重油消費量を約50%削減できる。
  • 白熱灯による長日処理を行う(図3)。(慣行 無電照)
    効果:花芽分化と発達の促進に有効。低夜温条件で効果が大きい。
  • 基肥(窒素)量を1/3(窒素成分0.5kg/a)に減らして定植初期に追肥(窒素成分0.5kg/a)をする。(慣行 窒素成分1.5kg/a)
    効果:低日照期の花芽発達と切り花ボリューム確保の両立に有効。

これまで冬季の安定生産が困難だった冬季低日照地域において、切り花の長さ70cm以上、花蕾数4以上の切り花を、生産コスト100円/本以下で1月に80%以上出荷できた実証栽培(図4右)の手順および、出荷時期別の作型表(図5)と作業内容を基本マニュアルとして示しました。

今後の予定・期待

本マニュアルは各産地の立地環境にあった低コスト冬季計画生産技術確立に活用できます。これによりトルコギキョウの生産性が向上して生産者の所得が向上するとともに、供給量が増加することで価格が安定し、冬も利用しやすい花として需要が増加することが期待できます。

用語の解説

花芽分化
成長点が葉ではなく花の元になる組織(花芽)を作るようになることです。栄養成長から生殖成長の切り替わりを意味する現象で、花芽が発達すると蕾になります。
花蕾(からい)
開花した花と蕾のことです。トルコギキョウの切り花の外観品質は切り花の長さと花の数で決まります。本マニュアルでは切り花長70cm以上、2枝2花2蕾(優品規格)以上を目標品質としました。なお、実証圃場で生産された切り花の50%以上が切り花長70cm3枝3輪開花3蕾以上の秀品でした。
同化
植物が無機化合物または簡単な有機化合物から有機化合物を合成する働きのことです。光合成は炭酸同化作用とも言われ、水と二酸化炭素から糖(有機化合物)を合成して植物体のエネルギー源とするとともに、酸素を放出します。トルコギキョウでは、蕾が開花するときに糖が必要なことは知られていますが、蕾発達の初期に植物体の糖濃度が極端に低下すると、蕾が生長を止めて壊死(ブラスチング)することがわかりました。
長日処理
電照により明るい時間を長くすることです。本マニュアルでは白熱電球を用い、日長が20時間となるように電照します。花芽分化と開花促進効果が期待できます。

図1 大苗定植による生育促進効果
図1 大苗定植による生育促進効果

 

図2 昼温管理の違いが初期生育量に及ぼす影響
図2 昼温管理の違いが初期生育量に及ぼす影響

 

図3 夜温10°Cでの長日処理による花芽分化促進効果
図3 夜温10°Cでの長日処理による花芽分化促進効果

 

図4 開花遅延(慣行:左)および実証栽培圃場の状況(右:2011年1月20日撮影)
図4 開花遅延(慣行:左)および実証栽培圃場の状況(右:2011年1月20日撮影)

 

図5 低日照地域1月出荷の作型表
図5 低日照地域1月出荷の作型表