プレスリリース
(研究成果) 遺伝子組換え作物の混入率をより正確に評価する 検査法が国際標準化

- 農研機構が開発したグループ検査法がISO国際規格に収載 -

情報公開日:2021年9月 2日 (木曜日)

ポイント

農研機構が中心となって、国際標準化機構1)において規格化を進めてきた、遺伝子組換え作物2)の検査法に関する国際規格ISO 22753:20213)が、8月27日に発行されました。この国際規格の付属文書に、農研機構が開発し、わが国で遺伝子組換え作物の混入率評価の公定検査法4)として活用されている"グループ検査法5)"が収載されています。"グループ検査法"は、近年普及が進む掛け合わせ(スタック)品種6)についても正確に混入率を評価できることが特徴です。今後、本検査法が国際規格に適合した検査法として広く利用されることで、輸入農産物の品質管理における信頼性向上が期待できます。

概要

この度発行された国際規格ISO 22753:2021には、遺伝子組換え(Genetically Modified; GM)作物が含まれているかどうかの定性検査の結果から、その混入率を統計的に評価する手法について、用語の定義や検査に求められる技術的な要件などが記載されています。その付属文書に、農研機構が開発し、わが国の公定検査法として定められている"グループ検査法"が具体的な事例として収載されました。

わが国においては、2001年の遺伝子組換え食品表示の義務化以降、公定検査法が定められ国内外の多くの機関で検査に利用されてきました。しかしながら、近年の掛け合わせ(スタック)品種の普及により、従来の検査法では、遺伝子組換え作物の混入率が過大評価(実際の混入率より高く評価)されるという問題が生じていました。その解決策として、農研機構ではスタック品種の場合でも正確な混入率の評価を可能にする手法である"グループ検査法"を開発し、2016年に公定検査法として提案・採用されました。

今回の国際規格の発行により、上記のグループ検査法が国際規格に適合した検査法として国内外に認知され、農産物の国際貿易に広く利用されることが期待されます。これを通じ、わが国に輸入される農産物の品質管理や食品表示の一層の信頼性向上につながります。

問い合わせ先
研究推進責任者 :
農研機構食品研究部門所長亀山 眞由美
研究担当者 :
同 本部人事部 人事管理役(元食品研究部門)橘田 和美
同 食品研究部門 食品加工・素材研究領域上級研究員真野 潤一
広報担当者 :
同 食品研究部門 研究推進部 研究推進室渉外チーム長萩原 昌司

詳細情報

社会的背景

遺伝子組換え作物の本格的な商業栽培開始からすでに25年が経過し、この間GM作物の生産は右肩上がりの増加を続けてきました。ダイズ、トウモロコシ、ワタ、ナタネなどが主要なGM作物でありますが、世界で栽培されている品種のうち、ダイズの約7割、トウモロコシの約3割、ワタの約8割、ナタネの約3割をGM品種が占めるほど(参考1)、その普及には目覚ましいものがあります。GM作物の利用にあたっては、わが国を含む多くの国や地域において、安全性の評価基準を定め、これに沿った評価を行い、安全性審査の手続を経た旨の公表等がなされたもののみが利用可能になっています。さらに、消費者の選択を保証するため、GM食品表示制度も導入されており、食品表示を担保するためには、信頼のおける検査法が必要となります。

グループ検査法開発に至る経緯

わが国においては、2001年4月からGM食品表示が義務化され、それに歩調を合わせ、公定検査法が定められ、国内外の検査機関などで利用されてきました。しかしGM作物開発の勢いには著しいものがあり、検査対象となる作物にも大きな変化が生じてきました。例えば、害虫抵抗性7)を有するGM系統と、除草剤耐性8)を有するGM系統を掛け合わせることにより、両方の性質を併せ持ったスタック品種を得ることが可能となり、農業生産性の向上に大きく寄与してきました(図1)。一方、検査の観点からは、従来の定量検査法では1つの種子に2つの外来遺伝子が導入されていると2倍に、3つの外来遺伝子が導入されていると3倍にというように、GM混入率が過大に評価される問題が生じていました(図2)。そこで農研機構においては、トウモロコシのスタック品種が急激に増えてきたことを受け、スタック品種の混入に影響を受けない"グループ検査法"(図3参考2)を開発し、トウモロコシ穀粒の公定検査法(参考3)として提案しました。同検査法は、従来の検査法と異なる概念に基づくものです。すなわち、検体からランダムに一定粒数のグループを規定数準備(サブサンプリング9))し、そのグループ毎にGM穀粒が含まれているか否かを判定し、その陽性グループ数から、統計的に混入率を評価する手法です。

国際規格化に至る経緯と意義

従来の検査法とは概念の異なる"グループ検査法"がわが国の公定検査法として採用されましたが、GM食品の検査法は国際貿易の場でも利用されるため、同概念に基づく検査法は国際的に広く認知される必要がありました。そこで、"グループ検査法"の開発機関である農研機構が中心となり、ISO/TC 34/SC 16(ISO/食品専門委員会/分子生物指標分析に係る横断的手法分科委員会)10)の国内審議団体である独立行政法人農林水産消費安全技術センターに加え、特定非営利活動法人バイオ計測技術コンソーシアム(JMAC)、および株式会社ファスマックの協力を得て、2017年に同分科委員会に規格案を提出しました。その後、提案規格を審議する作業部会が立ち上げられ、農研機構の研究担当者が同作業部会の座長に就任し、GM作物の栽培・消費に対して異なる立場をとる各国から表明された様々な意見を各国の納得のいく形で取りまとめました。そして、ISOが定める数々のステップを経て、最終国際規格案投票の結果、本規格案は承認され、8月27日に国際規格として発行されるに至りました。 この度発行された国際規格(ISO 22753:2021, Molecular biomarker analysis - Method for the statistical evaluation of analytical results obtained in testing sub-sampled groups of genetically modified seeds and grains - General requirements)には、サブサンプリングに基づく遺伝子組換え作物の定性的な検査結果を統計的に評価する手法に関する用語の定義と、検査・評価などにおける一般要求事項がまとめられています。さらに付属文書に、農研機構において開発し、わが国の公定検査法に採用されている、"グループ検査法"が具体的な事例として収載され、国際的に広く認知されることになりました。

今後の予定・期待

GM表示の信頼性を支えるグループ検査法が、国際規格の付属文書として収載されることにより、国際貿易の場においても広く利用され、食品表示の信頼性確保に貢献します。本規格は、"グループ検査法"をはじめとする新たな概念に基づく様々な検査法をカバーする国際規格であることから、今後欧州標準化委員会(European Committee for Standardization; CEN)にも提案される予定です。

農研機構は、わが国の農業と食品産業の発展のため、基礎から応用まで幅広い分野で研究開発を行う機関です。農研機構は、今後も国内外の農業と食品産業の発展のため、食品分析技術の開発と国際標準化に取り組んでいきます。

用語の解説

国際標準化機構
英語名称はInternational Organization for Standardization; ISO。各国の代表的標準化機関からなる国際標準化機関で、電気・通信および電子技術分野を除く全産業分野(鉱工業、農業、医薬品など)に関する国際規格の作成を行います。[ポイントへ戻る]
遺伝子組換え作物
ある生物が持つ遺伝子(DNA)の一部を、他の生物の細胞に導入して、その遺伝子を発現(遺伝子の情報をもとにしてタンパク質が合成されること)させる技術を活用して、様々な性質を持つよう改良した作物のことです。[ポイントへ戻る]
ISO 22753:2021
22753は規格番号、2021は発行年を表し、今後、規格内容の改訂が行われる場合には、改訂年号が更新されます。[ポイントへ戻る]
公定検査法
ここでは食品表示基準に基づき、消費者庁が定めた「安全性審査済みの遺伝子組換え食品の検査方法」を指します。
(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/pdf/food_labeling_act_190328_0003.pdf)[ポイントへ戻る]
グループ検査法
工業製品の品質管理などでは、大きな製造ロットから一部を抜き取って検査をすることで、規格に適合しないものの割合を推定する方法が広く利用されています。この方法を遺伝子組換え作物の検査に応用し、一定数の種子を含むグループを検体から規定数取り出して、そのグループ毎に定性的な検査を行い、その陽性グループ数から、統計的に混入率を評価する手法を開発しました。[ポイントへ戻る]
掛け合わせ(スタック)品種
2つ以上の異なる性質を導入した組換え作物を掛け合わせることによって、それら複数の性質を併せ持つように育種した組換え作物の総称です。[ポイントへ戻る]
害虫抵抗性
害虫に強い性質のことです。遺伝子組換え作物では、特定の種類の昆虫だけに殺虫力を示すタンパク質を作る遺伝子を導入し、害虫抵抗性が発揮されます。[グループ検査法開発に至る経緯へ戻る]
除草剤耐性
除草剤の影響を受けない性質のことです。遺伝子組換え作物では、特定の除草剤の影響を防ぐタンパク質を作る遺伝子を導入し、除草剤耐性が発揮されます。[グループ検査法開発に至る経緯へ戻る]
サブサンプリング
大きな検体から一定の規則でより小さな分析試料を取り出すサンプリング手法です。[グループ検査法開発に至る経緯へ戻る]
ISO/TC 34/SC 16
国際標準化機構の食品専門委員会TC 34(Technical Committee 34)において分子生物指標分析に係る横断的手法に関する分科委員会(Subcommittee 16)を指します。[国際規格化に至る経緯と意義へ戻る]

参考資料

参考1:
バイテク情報普及協会HP「作物別の栽培面積」
(https://cbijapan.com/about_use/cultivation_situation/)[社会的背景へ戻る]
参考2:
Mano et al., Practicable group testing method to evaluate weight/weight GMO content in maize grains. J. Agric. Food Chem., 59, 6856-6863, 2011 (https://doi.org/10.1021/jf200212v)[グループ検査法開発に至る経緯へ戻る]
参考3:
安全性審査済みの遺伝子組換え食品の検査方法.食品表示基準について(消食表第139号、平成27年3月30日)別添
((https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/pdf/food_labeling_act_190328_0003.pdf))[グループ検査法開発に至る経緯へ戻る]

参考図

図1 スタック品種の例
図2 従来の定量検査法によって生じるスタック品種の過大評価
図3 グループ検査法の概要