プレスリリース
(お知らせ) 小型GNSS受信機を使って、ドローン空撮画像でつくるほ場マップの位置精度を誤差数cmに改善
- 正確な位置情報により「ほ場マップ」の利用場面が拡がります -
ポイント
農研機構は、市販の小型受信機を使って、みちびきなどのGNSS1)情報を利用し、ドローン用対空標識2)の位置情報を計測する方法を解説したマニュアルを、本日公開しました。本成果をドローン画像解析ソフトと合わせて使えば、農業現場では、ほ場内の地面の凹凸や作物の生育むらを誤差数センチメートルレベルの高い位置精度でマップ化できるようになります。
概要
近年、スマート農業を実現するための先端技術の導入が図られつつあり、ドローン空撮画像を活用した農作物の生育状態の診断やロボット農機具の運用技術の開発も進んでいます。これらの目的でドローン空撮画像からマップを作成する場合は、空撮の際に用いる目印(対空標識)の正確な位置情報(緯度・経度・標高)を計測する必要がありますが、計測には高度な専門知識や高額な専用機材の初期導入コストが必要である、という問題がありました。
そこで農研機構は、対空標識の位置座標を小型GNSS受信機で精度よく計測する手順を解説した技術マニュアルを作成し、本日公開しました。
このマニュアルに則って作業すれば、市販のドローンと安価(専用機材の1/10以下の価格)な小型GNSS受信機を使って、対空標識の位置座標(緯度・経度・標高)を、簡単に誤差数センチメートルの精度で測定できます。解析に用いるソフトウェアは無料で使用可能で、測定作業も1人で行えるため、従来の方法よりも安価で手軽に高精度な計測が可能となります。
この様な位置情報の計測は、農業分野においては精緻な位置情報を有した不陸(凹凸)マップや作物生育マップを作成するために不可欠な要素技術の一つです。さらに本成果は、農業分野に限らず位置情報にもとづくきめ細やかな作業や管理を行うための空間情報インフラ整備に貢献します。
マニュアル(PDF形式)は農研機構のウェブページからダウンロードできます。
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/130441.html
関連情報
予算:運営費交付金
詳細情報
開発の社会的背景と経緯
近年、スマート農業を実現するための先端技術の導入が進む中、農作物の生育状態の診断やロボット農機具の運用に、ドローン空撮画像の活用が期待されています。これらの目的でドローン空撮画像を利用する場合、空撮の際に用いる目印(対空標識)の正確な位置情報(緯度・経度・標高)を合わせて計測する必要がありました。これまで、位置座標の計測には、トータルステーション3)やGNSS測量システムといった測量専門の機材を利用していました。しかし、高度な専門知識や高額な機材の初期導入コストが必要でした。そこで、農研機構では、近年急速に価格が安くなり、性能も向上した小型GNSS受信機を使用することで、誰でも簡単に対空標識の正確な位置情報を計測することのできる手法の検討を行いました。
研究の内容・意義
- 対空標識の位置座標を精度よく計測するために、小型GNSS受信機を用いた測位方法の活用を検討しました。本手法では、基準地点(国土地理院の電子基準点)と未知点(小型GNSS受信機の設置点)の2地点で同時に観測されたGNSSデータ(米国のGPSや日本のみちびきを含む全球測位衛星システムからの電波情報)を解析することで、小型GNSS受信機設置地点の正確な位置情報(緯度・経度・標高)を計測する方法(干渉測位4)法)を適用し、対空標識(ドローン空撮を行う際に設置する目印)の位置情報の計測を行います。
- 本手法で計測した対空標識の位置情報と、公共測量に使われる測量機器(トータルステーション)により算出した位置情報を比較したところ、測位誤差は、水平方向で2.1cm、垂直方向で2.2cmでした(図1)。このことから、本手法により対空標識の位置情報を高い精度で測位可能であることを確認しました。
- 本手法では、小型GNSS受信機(1台約10万円)を導入すれば計測が可能になります。また、小型GNSS受信機を複数台同時に使用することで、複数点の対空標識を効率よく計測することができます。位置情報の計測は、1人で行うことができます。なお、不陸計測などで高さ方向にミリメートルレベルの位置精度が必要な場合は、回転レーザー等のレベル測量機器を別途用意する必要があります。
- 位置情報の解析には無料のオープンソースのソフトウェア「RTKLIB5)(高須知二氏 開発・公開)」を用いるので、ソフトウェア利用料などのランニングコストは発生しません。
- 本手法を誰でも使えるよう、マニュアルを作成しました。マニュアルでは、1.はじめに(作業手順概要)、2.機材の準備・観測計画、3.対空標識の設置、4.GNSS観測、5. RTKLIBによる基線解析、6. Agisoft PhotoScan6)への座標情報の反映、という一連の作業に沿って解説しています(図2、表1)。
- 昨年度(2018年4月)、農研機構が公表した「ドローンを用いたほ場計測マニュアル(不陸(凹凸)編)」と合わせて使えば、精緻な位置情報を有する農地面の凹凸(不陸・排水性)マップや生育むらマップの作成が可能になります。
今後の予定・期待
本マニュアルとドローン観測技術を活用し、農地面の凹凸(不陸・排水性)マップや生育むらマップを整備することで、土壌改良資材や排水改良工事を散布・施工すべき最適な場所の位置を正確に把握することができ、位置情報にもとづく効率的なほ場管理を実現するための基盤的な空間情報インフラの整備に貢献します。
今後、利用者の意見も聞きながら、さらに使いやすい手法の開発やマニュアルの改善などを進める予定です。
用語の解説
- GNSS(Global Navigation Satellite System)
全球測位衛星システムの略語で、米国の「GPS」、日本の「みちびき」、欧州の「Galileo」など、各国の測位衛星システムの総称。
- 対空標識
空撮画像データの幾何補正を行うために使用する座標と高さが既知の基準点として用いる一時的な標識。
- トータルステーション
距離と角度を同時に高精度に測量できる機器。
- 干渉測位
位置座標が明らかになっている既知点とそうでない未知点の2点で同時に受信したGNSSからの搬送波の位相を解析し、既知点からの未知点の距離と方向を算出することで、未知点の正確な位置座標を求める方法。
- RTKLIB
高須知二氏((株)ライトハウステクノロジー・アンド・コンサルティング、東京海洋大学産学連携研究員)が開発・公開するGNSS観測データの解析を行うためのオープンソースのライブラリとアプリケーション群。
- Agisoft PhotoScan
カメラの視点を変えながら撮影した複数枚の画像からカメラの位置と3次元形状を復元し、モザイク合成画像や標高画像を作成することのできるAgisoft社製のソフトウェア。2018年12月にMetaShapeに名称変更されています。
発表論文
坂本利弘、岩崎亘典、石塚直樹、David S. Sprague(2019) 小型GNSS受信機および測位演算プログラムパッケージ「RTKLIB」による対空標識の簡易・高精度測位手法に関する事例研究、日本リモートセンシング学会誌、39(2)、123-132
参考図
表1 マニュアルの目次一覧
- 1
- はじめに
- 1.1
- 背景と目的
- 1.2
- 本マニュアルの注意点・免責事項
- 1.3
- 作業手順概要
- 2
- 機材の準備・観測計画
- 2.1
- 観測機材
- 2.2
- 観測方法の選択
- 2.3
- 衛星配置の確認
- 3
- 対空標識の設置
- 3.1
- 設置場所の選定
- 3.2
- 対空標識の設置
- 4
- GNSS観測
- 4.1
- GNSS観測手順
- 4.2
- 比高計測
- 5
- RTKLIBによる基線解析(座標値の算出)
- 5.1
- RTKLIBの準備と概要
- 5.2
- 基線解析に必要なファイルの準備
- 5.3
- 解析手順
- 6
- Agisoft PhotoScanへの対空標識の座標情報の反映方法
- 6.1
- Agisoft PhotoScanでの事前処理
- 6.2
- 対空標識(マーカー)の座標を入力
- 6.3
- QGISによる座標系の変換
- 6.4
- 対空標識(マーカー)の座標をインポート
- 7
- 参考文献
- 8
- 索引
- 付録