プレスリリース
イネのDNAマーカー育種の利用促進に向け情報を一元化

- イネの品種改良の効率化に貢献 -

情報公開日:2014年12月10日 (水曜日)

ACGRCロゴ


作物ゲノム育種研究センター
(農研機構、生物研)

ポイント

  • イネのDNAマーカー情報を一元化してウェブページで公開
  • イネの品種改良の現場でのDNAマーカーの利用を促進

概要

  • 農研機構と生物研が連携して運営する、バーチャル組織「作物ゲノム育種研究センター」は、育種関係者によるDNAマーカーの開発状況の把握を容易にし、イネのDNAマーカー育種の利用を促進するため、これまでに開発されたイネのDNAマーカー 約100種類について、標的とする形質・特性、活用するポイント等を一元化して整理したウェブページを公開しました。
  • イネのDNAマーカーは、国内外の研究機関や大学等が開発しており、近年、急速にその成果が蓄積されてきていますが、その成果情報が一元的に管理されていないため、品種開発の現場が必要とする情報を適時的確に得ることが難しいのが現状です。そのため、これまでに公開された文献情報を整理し、品種開発の現場に利用しやすい形で提供することとしました。
  • このサイトは、作物のDNAマーカー情報を提供していくものですので、現場で得られた成果や利用者からの様々なご要望などのフィードバックを得て、情報をより充実させていくこととしています。
  • 今後、イネに引き続きダイズやコムギなど他の作物についても、DNAマーカー情報を順次公開していく予定です。
  • 作物ゲノム育種研究センターは、急速に充実したゲノム情報を品種開発の現場で有効に活用し、ゲノム情報を利用した品種改良(ゲノム育種)を加速する目的で、平成26年4月に設置されたものです。今後とも関係者の皆様の御協力を得ながらゲノム育種の先導役として世界を牽引していく所存です。


詳細情報

DNAマーカー情報の整理の必要性

「作物ゲノム育種研究センター」が取り組むべき活動として作物ゲノム育種の推進に向けた情報提供があります。これまで多くの作物について、品種開発に有用な遺伝子の研究がゲノム情報を利用して進められてきました。これらの研究成果は学術雑誌などに発表されていますが、作物全体にわたって、どのような形質についてどのような遺伝子が明らかになり、そしてどのように活用できるかをまとめた情報源はなく、品種開発の現場では必要な情報を適時的確に得ることが困難でした。そこで「作物ゲノム育種研究センター」では、育種関係者によるDNAマーカーの開発状況の把握を容易にし、イネのDNAマーカー育種の利用を促進するため、これまでに開発されたイネのDNAマーカー 約100種類について、標的とする形質・特性、活用するポイント等を一元化して整理したウェブページを公開しました。DNAマーカーを利用する研究者だけでなく、研究企画に携わる行政の方々にも、開発情報を理解できるようにするとともに、詳細情報として、育種研究者が容易に利用するためのマーカーの塩基配列情報も整理しています。今回はイネのみの情報公開ですが、今後、イネに続きダイズやコムギなど他の作物についても、DNAマーカー情報を順次公開していく予定です。

このサイトは作物のDNAマーカー情報を提供するものですが、情報をより活用できるようにするために、利用者側からの様々な要望や得られた成果などのフィードバックを得て、より充実させていきたいと考えております。このため、利用される方は、簡単なアンケートにお答えいただき、利用者情報を登録していただければ幸いです。登録された方には、今後、このサイトの更新情報や、ゲノム育種関係の最新情報あるいは国内外のシンポジウム案内などをお知らせさせていただきます。また、情報を利用される際の技術相談にも必要に応じて対応させていただきます。

用語の解説

1)DNAマーカー:
生物個体の遺伝的性質、もしくは系統(個人、親子・親族関係、血統あるいは品種など)を特定するための目印となる個体特有のDNA配列をDNAマーカーといいます。DNAマーカーのゲノム上での挙動はメンデルの遺伝法則に従うことから、単純な遺伝様式の形質を司る遺伝子については連鎖関係(どのDNAマーカーの近くに存在するのか)を利用して染色体上の位置を明らかにすることができます。
2)ゲノム育種:
作物の交配集団の子孫から、DNAマーカーを利用して、望ましい遺伝子の組み合わせを持った個体を選抜する品種改良の方法のことをいいます。生育時期や栽培環境に影響しないDNA情報を直接調べることで、栽培時の特性の調査をすることなく効率的に育種選抜が進むことから、多くの作物で塩基配列の解読とともに導入が進んでいます。
 

DNAマーカー情報データベースの画面例1
topページ


DNAマーカー情報データベースの画面例2
簡易情報

DNAマーカー情報データベースの画面例3
詳細情報の一例


図.DNAマーカー情報データベースの画面例
イネについてゲノム育種への利用が可能な98個の遺伝子の特徴を簡易情報と詳細情報に分けて表示。簡易情報では、遺伝子の概要と開発した研究機関およびこれまでに情報を活用して育成された品種を記載。詳細情報では、それらの情報に加えてゲノム上の位置情報、文献、マーカー育種に必要なDNA(プライマー)配列の情報を記載。

参考

「作物ゲノム育種研究センター」設置の背景とその役割

作物のゲノム解読はこの10年間で飛躍的に進み、得られた塩基配列情報は農業形質に関わる多くの遺伝子の研究に活用されています。これらの研究成果は、品種改良において塩基配列の違いを目印にして、望ましい形質をもつ個体を選抜するDNAマーカー選抜育種にも利用でき、病虫害抵抗性遺伝子の導入といった優良個体の選抜の効率化が進みました。しかしながら、数多くの育種目標を抱える品種開発の現場では、急速に充実したゲノム情報を有効に利用できる十分な体制が整っていません。このような状況を受け、ゲノム情報を利用した品種改良(ゲノム育種)を加速する目的で、品種改良の現場を持つ農研機構と基礎研究を推進する生物研が互いに連携・協力した組織横断的なバーチャル組織「作物ゲノム育種研究センター」を平成26年4月に設置しました。

農研機構が品種開発の中で培った育種技術および育種素材と、生物研がゲノム研究で蓄積した配列情報や遺伝解析ツールを活用し、基礎(ゲノム研究・素材開発)から応用・開発(品種育成)まで一貫して技術開発・支援を行い、ニーズに合った高品質品種の育成や品種育成を効率的に行うための育種基盤の強化を図ります。まずイネにおいてこのような研究体制を構築したところであり、今後、イネ以外にも対象作物を拡大し、独立行政法人の育種研究機関はもとより、公設試および民間研究機関の品種開発支援にも取組を広げ、我が国の作物品種開発競争力の強化に貢献したいと考えています。

作物ゲノム育種研究センターの今後の予定

「作物ゲノム育種研究センター」の機能をフルに活用し、公設試あるいは民間研究機関のイネ新品種の育成支援に取り組みます。ゲノム育種支援の活動は、今後イネ以外の作物に対象範囲を広げ、DNAマーカー情報の整理はもとより、ゲノム育種の幅広い普及に取り組みます。