■ 「ぽろすけ」の生育過程・品種名の由来 「ぽろすけ」は2004年に極早生の育成系統550-40※3に早生の主要品種である「丹沢」を交雑した実生から選抜しました。2008年からクリ筑波41号としてクリ第7回系統適応性検定試験に供試し、全国15カ所の公設試験研究機関でその特性が調査されました。試験結果から「ぽろすけ」は、「ぽろたん」よりも1週間程度早く成熟し、良食味で渋皮がむきやすいなどの特性が明らかとなり、2016年に登録出願しました。「ぽろすけ」は渋皮がぽろっとむけること(『ぽろ』)、受粉樹として「ぽろたん」を補完する(た『すけ』る)ことから名づけられました。■ 「ぽろすけ」の特徴 樹勢※4の強さは中程度で樹姿は開帳性を示します(表1)。開花期は雄花・雌花ともに「ぽろたん」より2~3日ほど早く、開花期間は互いの雌花の受粉適期と十分重複します。収量は早生の主要品種である「丹沢」と同程度で、収穫期は「ぽろたん」よりも1週間程度早い8月下旬から9月上旬です。双子果※5や、選果の際の不良果の区分である腐敗果、虫害果の発生率は「丹沢」と同程度で、生産上問題にはなりません。虫害の発生は主にモモノゴマダラノ■ はじめに 日本においてクリは古くから利用されており、縄文遺跡からは果実を食用として、幹を木材として利用する痕跡が出土しているほか、『日本書紀』(720年)では持統天皇が五穀の助けとしてナシ・クワなどと共にクリの栽培を推奨したことが記述されています。現在でも北海道~鹿児島までの多くの地域で栽培され、庭木としても親しまれている果樹の一つです。日本で主に栽培されているニホングリ(Castanea crenata)は渋皮がむきにくく、加工の際には渋皮を取り除かなければなりません。そこで渋皮がむきやすい良食味のニホングリ品種として「ぽろたん」1)を育成し、2007年に品種登録しました。栽培面積は全国で約238haまで広がり、全体の2%を占めています2)。特に熊本県(68.8ha)や茨城県(37.1ha)で普及が進んでおり2)、熊本県や岐阜県などにおいては推奨品種とされています。 クリは他品種の花粉が受粉することで結実する自家不和合性※1のため、安定的に収量を確保するには受粉樹※2の混植が必要です。「ぽろたん」の受粉樹として渋皮がむきにくい品種を混植すると、収穫時にこれらが混入するリスクが生じ、渋皮がむきやすいという特性を活かした販売が難しくなります。そこで、「ぽろたん」の受粉樹となりえる渋皮がむきやすい品種の育成を目標に選抜を進め、2018年5月に「ぽろすけ」3)を品種登録(登録番号第26828号)しました。たんざわ「ぽろすけ」と「ぽろたん」の樹体特性表1品種樹勢※4樹姿注3)雌花満開期(月/日)収穫盛期(月/日)収量注2)(kg/樹)中やや弱中ぽろすけぽろたん丹沢やや開直やや開6/16/36/68/289/48/285.96.26.3注1)農研機構(茨城県つくば市)において2014年-2016年に調査注2)樹齢6-8年生樹の平均値注3)樹の枝の伸展特性を表し、開帳性、直立性、中性などに区分する■ニホングリの雌花特集 品種開発Ⅲ 2竹内 由季恵TAKEUCHI Yukie渋皮が簡単にむけるニホングリ新品種「ぽろすけ」 10NARO Technical Report /No.10/2021
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