■ 「あすき」の栽培特性 「あすき」の樹勢※1は中~やや強いですが、春枝(春に発生する枝)のトゲの発生節率は8%と低く、年次によっては発生がほとんどありません。着花数は中程度で裂果や後期落果は少なく、栽培上の問題となることはないと考えられます。隔年結果性(着果の多い表年・少ない裏年の生じやすさ)は「あすみ」や「せとか」に比べて少なく収量性は中程度と考えられます。露地栽培・慣行防除※2の条件下ではそうか病※2の発生はみられていません。かいよう病※2の発生程度は「あすみ」や「せとか」より少ないですが、かいよう病多発地帯での栽培は避け、風当たりの強くない園地もしくは防風垣の整備された園地で慣行防除を行うことが望ましいです。また、種子数の増加を防ぐためには、周辺には花粉の多い品種の植栽を避ける必要があります。成熟期が3月となるため、冬期に-2~-3℃を下回らない温暖な地帯での栽培に適しており、鳥害対策と防寒対策を兼ねた被覆資材の利用が望ましいです。■ 「あすき」の育成経過 「あすき」はオレンジ香を有し、良食味である「興津46号」を種子親、高糖度かつ良食味で、じょうのう膜が薄く食べやすい「はるみ」を花粉親として、1992年に果樹試験場興津支場(現・農研機構興津カンキツ研究拠点:静岡県静岡市)で交配した実生群の中から選抜されました。国内の地域適応性の検討を行った結果、3月中下旬に成熟し、ほぼすべての試験地で毎年安定して糖度が極めて高く、非常に食味が優れていることが明らかになり、カンキツ産業の未来(明日)を明るく輝かせる(希望を与える)品種となること、また、同じ交配組み合わせから育成した「あすみ」とともに姉妹をイメージしていただくことも期待して、「あすき」と命名し、2017年6月に品種登録出願、2017年11月に出願公表(出願番号第32235号)されました。 「あすき」の苗木は、日本果樹種苗協会と許諾契約を締結した果樹苗木業者によって2020年12月から流通が開始されています。流通量は今後増加することが見込まれますが、苗木の購入の際には許諾契約に基づいて生産・販売されていることを示した証紙を必ず確認してください。■ おわりに 「あすき」の普及は始まったばかりで、市場での認知や流通までには時間が必要ですが、加工品を含めた国産果実の消費拡大と需要喚起、安定した高品質な生鮮果実および加工果実の供給拡大への貢献が期待されます。「あすき」に限らず、カンキツを含む果樹の新品種育成及び普及には時間を要しますが、農研機構ではゲノム情報を利用した選抜の効率化などの技術開発と並行し、食べて美味しい「良食味」、健康に役立つ「機能性成分高含有」など、今後も皆様の需要にあった新品種の育成を進めていきます。(果樹茶業研究部門 カンキツ研究領域カンキツ品種育成・生産グループ)用語解説̶※1 樹勢 枝の伸長程度から判定する樹の勢い。強い品種として甘夏、八朔、レモンなど、弱い品種としてキンカン、極早生の温州などが該当します。※2 慣行防除、そうか病、かいよう病 糸状菌(カビ)によるそうか病、細菌によるかいよう病はいずれもカンキツの重要病害であり、落葉や果実品質の低下を引き起こすため、定期的な殺菌剤の散布による発生の予防(=慣行防除)が重要になります。参考文献̶1)日本園芸農業協同組合連合会(2019) 平成30年産 柑橘販売年報.2)日本園芸農業協同組合連合会(2020) 令和2年度版 果樹統計.3)総務省(2019) 家計調査年報. 家計調査 1世帯当たり年間の品目別支出金額, 購入数量および平均価格(二人以上の世帯).4)公益財団法人 中央果実協会(2020) 令和元年度 果物の消費に関するアンケート調査報告書, p.41.5)農林水産省(2020) 果樹農業の振興を図るための基本方針(果樹農業振興基本方針), p.14. 6)農林水産省(2021) 果樹をめぐる情勢, 令和3年7月, pp.19.7)農林水産省 大臣官房統計部(2014) 平成26年度 農林水産情報交流ネットワーク事業. 全国調査 カットフルーツの取扱いに関する意識・意向調査結果.8)吉岡照高(2017) 糖度が高く、ドリップの少ない晩生カンキツ新品種「あすき」. 農研機構 普及成果情報. https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nifts/2017/17_041.html 9)太田智ら(2021) カンキツ加工適性品種育成のために重視すべき形質およびその選抜基準. 園芸学研究, 20(2),131-142.あすき■「あすき」の花特集 品種開発Ⅲ 317NARO Technical Report /No.10/2021
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