■ 「璃の香」の特徴 「璃の香」の大きな特徴は、露地栽培でもかいよう病の発生が少ないことです。育成地(農研機構興津カンキツ研究拠点:静岡県静岡市)および全国のカンキツ生産地での試作試験における通常の防除のもとでは、一般のレモンと比較してかいよう病の発生程度は明らかに低く、強い抵抗性を示しました(図3)。「璃の香」の樹体特性については、樹勢は強く、樹姿は長円形で枝梢の性質は直立性であり、その発生密度はやや粗いです。とげの発生は少なく、長さも短いため管理がしやすい品種です。露地栽培において、一般的なレモンと比べるとかいよう病の発生程度が明らかに低いだけではなく、そうか病※4についても通常の防除のもとではほとんど発生しません。本格的な結実を開始すると着果量が多く、隔年結果性※5が低いため毎年安定した収量が得られます。ただし、着果過多になると樹勢が弱くなるので、果実を過度に成らせすぎないように注意が必要です。また、果実の成熟期は着色の進行具合と果汁の蓄積状況からおおよそ11月下旬以降となるため、育成地では「リスボン」レモンや「マイヤーレモン」より1カ月程度早く成熟果実を収穫することができます(表1)。 「璃の香」のもう一つの特徴は、既存のレモン品種に比べて生食だけではなく、加工用カンキツとして優れた有用特性をもつことです。加工する際に求められる重要な特性には、果実の大きさ、歩留り※6、および種子数などがあげられます5)。「璃の香」は、果実の大きさが200g程度と既存の品種より一回り大果で、果肉の割合が79%、搾汁率※7が50%といずれも高く、既存品種より歩留りが高いため加工適性に優れると言えます。また、「璃の香」の果皮の厚さは3mm程度と「リスボン」レモンや「マイヤーレモン」に比べて薄く、また果肉をそのままの形で取り出すことも可能なため剥皮性が求められる加工の際に利用しやすい品種であると言えます。さらに、果皮の苦味が少ないこと、じょうのう膜(房を形成する袋状の膜)が比較的軟らかいこと、種が「リスボン」レモンや「マイヤーレモン」より少なく無核果も結実することなど、加工用として利用しやすい有用な特性を多くもつと考えられます。食味については果汁の糖度が9.2%、酸含量が5.6%程度と「リスボン」レモンよりも酸味がまろやかです。香りも「リスボン」レモンに比べて穏やかながら、成熟するとレモンと「ヒュウガナツ」を足したような特有のレモン香6)となり、「リスボン」レモンにはない和柑橘の優しい香りを発します(表2)。品種名「璃の香」にある「璃」は「宝」あるいは「ガラス」「水晶」という意味をもち、この品種のもつ透明感やすっきり感のある香りを表しています。このように、「璃の香」はこれまで加工適性の改良で求められてきた「果汁の多さ」、「種なし」および「酸味のまろやかさ」などの特徴をあわせもつことから、既存品種にはない特徴をいかした多様な加工製品の開発が期待されます。かいよう病発生程度の割合図30102030405060708090100璃の香(対照品種)レモン注)育成地および全国のカンキツ生産地の試験研究機関におけるかいよう病発生程度の割合(2012年)かいよう病発生程度の割合 (%)甚中軽無23NARO Technical Report /No.10/2021
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