芸クイーン」などの赤色品種がありますが、着色が不安定であるという共通の問題があり、全国的に広く普及した品種は今のところありません。加えて、赤色品種を含めこれらの四倍体品種群は「巨峰」と同様の中程度の硬さと中程度の噛み切りやすさを示す品種がほとんどでした。農研機構では生食用ブドウ品種の多様化による需要の拡大を目指し、大粒でジベレリン処理による種無し化が可能で噛み切りやすい肉質を持ち、果皮色が「巨峰」と異なる品種を目標に定めて育成を続けてきました。その結果として、大粒で果皮色が赤く硬く噛み切りやすい肉質を持ち良食味の「クイーンニーナ」を育成しました(図1)2)。本稿では、その品種特性と最近の高品質果実生産に向けた研究成果について紹介します。■ はじめに 生食用ブドウ品種は、ヨーロッパブドウ(V. vinifera L.)と、アメリカブドウ(V. labruscana L.)に大別されます(表1)1)。ヨーロッパブドウには「マスカット・オブ・アレキサンドリア」や「リザマート」などの大粒で硬くて噛み切りやすい肉質を有し食味良好と評価される品種が多く、一般に病気や果粒が割れる裂果が発生しやすい欠点があります。一方、アメリカブドウは小粒から中粒で噛み切りにくい肉質を持った品種が多いですが、ヨーロッパブドウと比較して病気や裂果の発生が少なく、栽培性が優れる傾向があります。そのため果実成熟期に雨が多いわが国では「デラウェア」や「キャンベルアーリー」、「コンコード」などの二倍体の小粒~中粒のアメリカブドウが導入された明治以降盛んに栽培されてきました。1960年代以降になると、アメリカブドウとヨーロッパブドウそれぞれから突然変異で生じた四倍体品種を交雑親として育成された「巨峰」が普及していきました。その後「巨峰」において植物ホルモン(ジベレリン)処理を利用した種ができなくなる(種無し化)栽培法が確立されると、「ピオーネ」や「藤稔」といった「巨峰」に近縁の種無し化栽培可能な紫黒色の四倍体品種群の栽培面積が大きく増加しました。一方、「巨峰」と近縁の四倍体品種の中には「オリンピア」、「竜宝」、「安「クイーンニーナ」の結実状況図1代表品種果粒の大きさマスカット・オブ・アレキサンドリア、リザマート、甲斐路 などヨーロッパブドウ(V. vinifera L.)裂果性・耐病性など裂果しやすく、耐病性弱い、耐寒性弱い一般的に大粒~中粒しまりがあり、噛み切りやすい肉質マスカット香を持つ品種もあるデラウェア、キャンベルアーリー、コンコード などアメリカブドウ(V. labruscana L.)裂果しにくく、耐病性強い、耐寒性強い一般的に中粒~小粒ゆるく、噛み切りにくい肉質フォクシー香を持つ品種が多い肉質・香り生食用ブドウの種間差 (Yamada・Sato (2016)を参考に追記)表1松﨑 隆介MATSUZAKI Ryusuke大粒で赤い果皮色の食味が優れるブドウ品種「クイーンニーナ」特集 品種開発Ⅲ 730NARO Technical Report /No.10/2021
元のページ ../index.html#30