■ 「クイーンニーナ」の 安定着色に関する研究状況 大粒四倍体赤色品種は一般的に、光環境や着果量、温度などの影響で着色不良になりやすいという問題があります。ブドウの果皮色はMYB(ミブ)とよばれる遺伝子に制御されており、着色機能のないMYB遺伝子(A)とA以外の着色機能のあるMYB遺伝子(E1、E2)の組み合わせ(MYB遺伝子型※6)により果皮色が遺伝的に決まることが明らかになっています。「クイーンニーナ」のMYB遺伝子型も、他の赤色品種と同じMYB遺伝子型(A/A/A/E1)であり、ブドウの果皮の色素であるアントシアニン含量が紫黒色品種より顕著に少なく、他の赤色品種との遺伝的な着色能力差もなく同様に着色不良のリスクがあります(図4)5)。「クイーンニーナ」の安定着色を実現するための技術開発として、光環境・着果量・栄養状態などについての研究が各地の公設試験研究機関で行われています。光環境について、愛知県では着色向上のために果房付近の葉が混み合う場合の適度な摘葉、遮光率の低い果実袋の使用、光線反射のためのマルチ資材の利用2回処理による種無し化栽培における花穂整形労力※2・結実性・摘粒労力※3は「巨峰」並みであると評価されました。収穫期は関東地方以西では8月下旬~9月上旬、東北地方・北海道・長野県では9月下旬~10月上中旬で、全国平均は「巨峰」よりも7日、「ピオーネ」よりも4日遅い9月15日でした。果粒の大きさは場所により10.6~20.8gと変動しましたが、全国平均値は「巨峰」よりも3g程度、「ピオーネ」より2g程度それぞれ大きい14.7gでした。果皮の剥けやすさは種無し化栽培された「巨峰」および「ピオーネ」と概ね同等と評価されました。「クイーンニーナ」の肉質は「巨峰」および「ピオーネ」よりも果肉が硬く、果肉の噛み切りやすさもやや噛み切りやすいと評価されたことで、ヨーロッパブドウの肉質に近いと評価されました。糖度の平均値は20.6%で「巨峰」および「ピオーネ」より2%以上高く、一般的に寒冷地では高くなりやすい酸度も北海道および東北北部でも0.6g/100mL以下で、全国平均値でも0.4g/100mLと「巨峰」および「ピオーネ」より低く、「クイーンニーナ」は高糖度かつ低酸度であると評価されました。また、「クイーンニーナ」の香気は「巨峰」、「ピオーネ」と同様のフォクシー香※4に属しますが、特有の甘く良好な香気も有します。肉質、甘味、酸味、香気を総合した「クイーンニーナ」の食味評価は非常に優れる結果となりました。品質面に加えて、短梢剪定※5での栽培も可能です。■ 「クイーンニーナ」の栽培上の留意点 育成地(広島県東広島市)での調査などから、一般に四倍体赤色品種は黄緑色および紫黒色品種と比較して果房当たりの葉面積を多く配分する必要があることが明らかになっており「クイーンニーナ」の成木時の適正収量は赤色品種の1.2t/10aであると推定されます3)。また、樹冠拡大中の若木の着果は果実品質や樹勢の低下を招く恐れがあるので適正収量よりも制限する必要があります。系適試験において、東北北部・北海道での栽培試験の結果から「クイーンニーナ」の耐寒性は「巨峰」よりも低く冬季の凍霜害に弱いことが指摘されていますので、東北北部以北などの寒冷地での栽培には注意が必要です(図3)。また、高温障害と考えられる縮果の発生も認められました。愛知県では、後述の光環境の改善に加えて、傘かけや着色開始期から収穫期までの果房への1回20分・3~4時間おきに2回の散水による対策を推奨しています4)。「クイーンニーナ」の安定着色を実現するための栽培目標図3●「クイーンニーナ」の安定生産のためには ・樹冠拡大中の着果を制限 ・寒冷地での栽培では凍霜害に要注意●「クイーンニーナ」の良好な着色のためには ・果粒重:15g程度、房重:500g以下 ・収量:1.2t/10a以下、適度に光が棚面を通過 (傘かけなどの高温障害対策も必要!)● その他着色改善効果が期待できる要素 ・環状はく皮・種無し化の際のジベレリン1回処理ブドウ品種「クイーンニーナ」32NARO Technical Report /No.10/2021
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