農研機構技報No.10
33/40

を推奨しています4)。また、「クイーンニーナ」を含む四倍体赤色品種において、糖度が着色と強い相関を示すことが報告されています6)。一般に糖度は着果量と負の相関を示すことから、適正な着果量を把握することが赤色品種の安定した着色に重要であると考えられます。愛知県では、10a当たりの収量を1.2tと1.5tで比較したところ、着色不良果の割合が、後者では前者の2倍程度になったことが報告されています4)。環状はく皮処理は、主に高温で着色が安定しにくい地域で活用されている技術ですが、環状はく皮での「クイーンニーナ」の着色向上効果を幅4mmと12mmの区で比較検討した試験では、後者で高い効果が得られたことが報告されています7)。鹿児島県で環状はく皮を行い10a当たりの着果量を1.2t、1.6tおよび2.1tの3段階で試作したところ、着果量が1.6t以下の場合には糖度20%を確保できる一方で、果皮色は着果量が少ない程良好だったことが明らかになりました8)。近年では、満開3~5日後にホルクロルフェニュロン(CPPU)を10ppm添加したジベレリン25ppmを1回のみ処理する方法が、慣行の2回処理法(2回目は満開10~15日後に処理)よりも果粒は小さくなるものの、糖度・着色・房型の面で優れる果房を生産できたことが報告されています9)。これらの技術の活用による安定着色した高品質果実生産が期待されます。■ おわりに 生食用ブドウ全体の栽培面積が減っていく中で、「クイーンニーナ」は現在徐々にではありますが、栽培面積が増加しています。同じく農研機構育成でヨーロッパブドウに似た食味を持ち栽培面積増加中の「シャインマスカット」とともにわが国のブドウ産業の発展に貢献していくことが期待されます。(果樹茶業研究部門 果樹品種育成研究領域落葉果樹品種育成グループ)用語解説̶※1 系統適応性検定試験(系適試験) 独立行政法人や指定試験事業を受けた都道府県の試験研究機関で育成中の有望な系統について、新品種候補とするにふさわしい特性を持っていることを確認し、普及に適した地域を明らかにするためにその作物の主な栽培地域の公設試験研究機関で行われる栽培試験。※2 花穂整形 果房の大きさや形状を整えて商品価値の高い果実を生産することを目的として、開花前に花穂の形を整える作業。 ※3 摘粒 果粒肥大を促して商品価値の高い果房を生産することを目的として、開花・結実後に果粒数や果房の大きさを調整する作業。 ※4 フォクシー香 「キャンベルアーリー」、「コンコード」などに代表されるアメリカブドウ特有のいわゆる「ぶどうジュースのような」香気。※5 短梢剪定 ブドウの剪定法は、枝の太さや充実程度によって5~12芽を残して切り落とす「長梢剪定」と、一律に枝の基部2~3芽のみを残して切り落とす「短梢剪定」に大別されます。長梢剪定は樹勢調節が容易であらゆる品種に適用できこれまで広く普及していましたが、剪定が複雑な場合が多く作りこなすには経験を必要とします。そのため、品種によっては適用が困難な場合もありますが、剪定が画一的でわかりやすく省力的であることから近年は短梢剪定の普及が進んでいます。※6 MYB遺伝子型 着色に関与するMYB遺伝子の組み合わせの型。四倍体品種では着色機能のないAを4つ持つと黄緑色ブドウ、着色機能のあるE1やE2を1つでも持つと着色系ブドウになります。さらに、着色機能のあるE1を1つだけ持つと赤色、E1やE2を2つ持つと紫黒色になり、3つ以上持つと安定した紫黒色になる傾向があります。参考文献̶1)Yamada, M. and Sato, A. (2016) Advances in table grape breeding in Japan. Breeding Science, vol.66(1), 34-45.2)佐藤明彦ら(2013) ブドウ新品種‘クイーンニーナ’.果樹研究所研究報告, 第15号, 21-37.3)白石美樹夫ら(2012) 葉影率から推定したLAIに基づく露地栽培ブドウの着果量調節事例. 園芸学研究, vol.11(1), 127-136.4)愛知県農業総合試験場(2017) ブドウ赤色・大粒種「クイーンニーナ」の無核栽培マニュアル.                         https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/259565.pdf   (参照 2021-7-15)5)Azuma, A. et al. (2011) Haplotype composition at the color locus is a major genetic determinant of skin color variation in Vitis × labruscana grapes. Theor Appl Genet, vol.122, 1427-1438.6)宇土幸伸ら(2015) 糖蓄積がブドウの着色に及ぼす影響. 山梨県果樹試験場研究報告, vol.14, 11-19.7)持田圭介・内田吉紀(2014) ブドウ‘クイーンニーナ’における環状はく皮と主枝更新せん定の併用効果. 園芸学研究, vol.13(1), 47-52.8)坂上陽美(2016) ブドウ「クイーンニーナ」の色と品質は着果量で決まる!. 鹿児島県農業開発総合センターニュース, 22, 4.              https://www.pref.kagoshima.jp/ag11/centernews/documents/34300_20160324133031-1.pdf (参照 2021-7-26)9)里吉友貴ら(2019) ジベレリン処理方法の違いがブドウ‘クイーンニーナ’の果実品質に及ぼす影響. 山梨県果樹試験場研究報告, vol.16, 29-36.四倍体品種のMYB遺伝子型および果皮のアントシアニン含量※Azuma, et al. (2011)のデータから引用図4品種名果皮色MYB遺伝子型アントシアニン含量(mg/生果皮g)巨峰ピオーネ藤稔ブラックビート紅瑞宝竜宝安芸クイーンクイーンニーナ紫黒紫黒紫黒紫黒赤赤赤赤A/A/E1/E2A/A/E1/E2A/A/E1/E2E1/E1/E2/E2A/A/A/E1A/A/A/E1A/A/A/E1A/A/A/E11.48±0.151.14±0.221.75±0.127.44±1.790.17±0.010.15±0.020.16±0.010.26±0.01ブドウの着色にはMYB遺伝子が関与。特に巨峰系の四倍体ではA、E1、E2の3種のMYB遺伝子が存在し、E1とE2を持つMYB遺伝子型では果皮が着色。特集 品種開発Ⅲ 733NARO Technical Report /No.10/2021

元のページ  ../index.html#33

このブックを見る