■ サクラ属スモモ亜属内の種間雑種 ウメはニホンスモモやアンズと共にサクラ属スモモ亜属に属します。この3つの種においては種間雑種を獲得することができます。 ニホンスモモとアンズの雑種は、欧米では多く栽培されていて『Plumcot』と一つのグループとされています。さらに世代を進めた『Pluot』と『Apurium』も栽培されています。しかし、いずれもわが国ではほぼ栽培されていません。ウメとアンズの雑種は、「豊後」などの品種が古くからわが国にもありましたが、栽培性や果実形質が劣ることから栽培は限定的です。ニホンスモモとウメの雑種は和歌山県で発見された「李梅」がありますが、結実性が劣ることなどから広くは普及していません。そのため新たなニホンスモモとウメの雑種個体を作出して選抜を進めました。■ 「露茜」の育成経過と特徴 「露茜」は1993年に赤肉のニホンスモモ「笠原巴且杏」に、ウメ「養青梅」を交雑して得られた実生から選抜しました。1999年4月よりウメ筑波10号の系統名でウメ第2回系統適応性検定試験に供試して全国15カ所の公立試験研究機関で試作栽培を行い、その特性を検討しました。その結果、果実が大きく果皮全面に着色し、成熟に伴い果肉も鮮紅色に着色することから梅酒加工に適すると判定され、新品種候補とすることが決定されました。2007年11月に「露茜」と命名して種苗法による品種登録出願を行い、2009年2月26日に品種登録(登録番号第17561号)されました。 系統適応性検定試験における「露茜」の特性は以下のとおりでした3)。枝の発生数はやや少なく、一般的なウメ■ はじめに 1980年代に自然食品や健康食品需要の増加に伴い青梅や梅干しの消費が拡大し、価格も上昇したことからウメの栽培は増加しました。その結果、2003年には栽培面積が18,200haに達し、1995年から2003年では出荷量が10万tを超える年が多くなりました1)。しかし、出荷量が多くなりさらに1980年代後半からウメ加工製品の輸入量が増加したことにより供給過多の傾向となり、価格も低下しました。また、栽培品種が「南高」や「白加賀」など各地域で栽培されていた在来系統から選抜された少数の品種に偏っているため2)、出荷時期や用途が限定されることも市場における価格低下の要因となっています。そのため、栽培面積は緩やかに減少し、2020年では14,100haとなっています1)。さらに、ウメ生産の増加を牽引してきた「南高」の栽培面積も2010年から減少しています。農研機構ではウメの果実特性の多様化と新たな需要を創出するために、ニホンスモモの赤肉をウメ品種に導入する事を目的にニホンスモモとウメの種間交雑(種が異なる両親を用いた交雑)を行いウメ新品種の育成を目指しました。その結果、果皮および果肉が紅色となる「露茜」を育成しましたので、その育成経過および特徴などを紹介します。なんこうしろかがぶんごすももうめかさはらはたんきょうようせいうめ八重垣 英明YAEGAKI Hideaki果皮と果肉が赤いウメ品種「露茜」特集 品種開発Ⅲ 8つゆあかね34NARO Technical Report /No.10/2021
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