農研機構技報No.10
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A:やや発育不全(ウンシュウミカン) 不完全なやくの発育を示し、花粉量が少ない。B:健全(トロビタオレンジ) 4つの花粉嚢が十分に発育し、多くの花粉が形成される。C:極端な発育不全(清見) やくが極端に発育せず、花粉が形成されない。 カンキツのやくの発育不全は、 細胞質と核の遺伝子の相互作用により出現する。a:種子の外観b:外種皮を剥いたところc:外種皮、内種皮を剥き、  胚を分離したところウンシュウミカン「宮川早生」も「トロビタオレンジ」も多胚性である。「清見」(「宮川早生」×「トロビタオレンジ」)は、多胚性の両親から出現した単胚性品種である。単胚性は一つの主働遺伝子による劣性形質である。図1やくの発育不全の出現図2単胚性の出現A.多胚性(宮川早生)B.単胚性(清見)ABCa1cmabbcc1種子内に珠心組織由来の無性胚が複数発育する。1種子内に受精卵由来の雑種胚のみが発育する。(図2B)であり、実生は全て雑種です。そのため、優れた育種親にもなりました。 やくの発育不全は細胞質と核遺伝子の相互作用によるもので、ウンシュウミカンに由来する細胞質を持つ「清見」やその後代を種子親とすることで、優良な無核品種や育種素材が育成され、様々な遺伝的な知見も蓄積しています。これらの70年以上の年月をかけた素材と知見の蓄積は、今後のカンキツ育種においても重要な役割を果たすでしょう。 (果樹茶業研究部門 果樹品種育成研究領域)農研機構技報NARO Technical Report No.102021年9月29日発行発行者/久間和生発行所/農研機構 広報部広報戦略室(編集委員会事務局)〒305-8517 茨城県つくば市観音台3-1-1製作協力・印刷/株式会社アイワット非売品*本誌掲載の記事・写真・イラストの無断転載・複写を禁じます。技報バックナンバーhttps://prd.form.naro.go.jp/form/pub/naro01/research本誌研究内容に関するお問合せは1)西浦昌男・岩崎藤助(1963) カンキツの育種に関する研究 第1報 交雑による含核数の変異. 園芸試験場報告B 第2号. 1-13.2)西浦昌男・岩崎藤助(1964) カンキツの育種に関する研究 第2報 獲得実生数と温州ミカンの雑種獲得率. 園芸試験場報告B 第3号. 1-10.3)西浦昌男ら(1983) カンキツ新品種‘清見’について. 果樹試験場報告B 第10号. 1-9.参考文献図3「清見」の原木39NARO Technical Report /No.10/2021

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