溶存濃度 同時低減技術 3日間湛水4日間落水を繰り返す間断灌漑(以下3湛4落)は、土壌の酸化還元に伴って溶出する無機ヒ素とカドミウムをバランス良く抑制することで、水稲による吸収を低下させる技術です3)(図2、図3上)。特に土壌から田面水に溶け出す無機ヒ素(溶存ヒ素)濃度を確実に低下させるには、4日間連続で土壌を乾燥させることが本技術のキーポイントです。4日間、土壌をしっかり乾かすことで、再湛水後も土壌の還元が発達しにくくなり、溶存無機ヒ素濃度の上昇を抑制できます4)。また、一時的に上昇した■ 水管理による無機ヒ素・カドミウム■ はじめに水稲栽培におけるヒ素とカドミウムの関係湛水により土壌が還元的になると、ヒ素が溶出しやすくなり、水稲のヒ素吸収が高まる。落水により土壌が酸化的になると、カドミウムが溶出し、水稲のカドミウム吸収が高まる。水田土壌におけるヒ素とカドミウムの溶出パターン (模式図)トレードオフカドミウムが溶出➡カドミウム 吸収大湛水1日2日3日4日落水落水するとヒ素濃度は急激に下がる湛水するとヒ素濃度が上昇土壌が酸化的になり始める湛水を継続するとヒ素濃度は上昇を続ける落水期間の後半でカドミウム濃度上昇再湛水でヒ素濃度上昇再湛水でカドミウム濃度低下ヒ素が溶出➡ヒ素吸収大図1図2低下湛水NARO Technical Report /No.11/2022ヒ素カドミウムヒ素カドミウム10たんすいISHIKAWA SatoruNAKAMURA KenYAMAGUCHI Noriko落水(酸化的) ヒ素やカドミウムは自然環境中に普遍的に存在するため、作物吸収を介して微量ながら多くの食品に含まれています。一般的な日本人の食生活では可能性は低いと考えられているものの、食品を通してヒ素やカドミウムを継続的かつ大量に摂取した場合には、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。毒性の高い無機ヒ素とカドミウムは、食品の中でもコメから摂取する量が比較的多いとされています。コメ中の無機ヒ素とカドミウム濃度には国際的な食品の基準値(国際基準値)※1が設けられています。農林水産省が公表しているコメの無機ヒ素とカドミウム濃度に関する全国実態調査1)2)によると、日本産米における濃度は国際基準値と比較しても低い濃度であったものの、慢性的な摂取によるヒトの健康被害リスクを減らすとともに、コメやコメ関連食品の輸出拡大促進に寄与するため、コメ中の無機ヒ素とカドミウムの低減対策を続けることが重要です。 コメのカドミウム吸収抑制対策として、出穂期前後各3週間の湛水管理が奨励されています。一方このような湛水管理は土壌の還元化に伴う無機ヒ素の溶出を促進す湛水(還元的)るため、コメの無機ヒ素濃度は高まります。落水管理による土壌の酸化はヒ素溶出を抑制しますが、カドミウムが溶出しやすくなるため、コメのカドミウム濃度が高まります(図1)。このように無機ヒ素とカドミウムは、水稲栽培においてトレードオフ※2の関係にあるため、両方を同時に低減するための技術開発が必要です。本稿では、現在取り組んでいる水管理・資材・品種を用いた無機ヒ素・カドミウム同時低減技術の紹介に加え、普及に向けた課題も提示しました。特集 防ぐⅡ ■コメに含まれるヒ素・カドミウムの同時低減技術 石川 覚 中村 乾 山口 紀子
元のページ ../index.html#10