■ 開発の背景■ はじめに病変写真A:口腔内びらん・上皮、B:蹄病変図1NARO Technical Report /No.11/202222ABMORIOKA Kazuki 口蹄疫(foot-and-mouth disease, FMD)はわが国において特定家畜伝染病に指定されている最も重要な越境性家畜感染症(国境を越えてまん延する重要な家畜の伝染病で、防疫には国際的な協力を必要とする疾病)の一つです。感受性動物は主に牛、豚、山羊、めん羊などの偶蹄類(ひづめが偶数)の家畜で、野生動物を含む多くの動物種で感染の報告があります。原因となる口蹄疫ウイルスは伝染性が極めて強いため、防疫および清浄化には甚大な労力を要します。口蹄疫に罹患した家畜は口、鼻、蹄および乳頭の粘膜に水疱(水ぶくれ)、びらん、潰瘍(図1)を形成し、それによりエサを食べられなくなったり(摂食障害)、立ち上がれなくなったり、歩くのを痛がったりすること(運動器障害)による症状が発生し、家畜の生産性に大きく影響します。また、発生に伴う特定家畜伝染病防疫指針1)に基づく防疫対策による家畜および畜産物の移動制限や輸出入停止などの対応がとられると、畜産業、さらに観光業を含めた周辺産業に甚大な経済的被害をもたらします。 2010年の国内発生では292農場に疾病が広がり、発生地域である宮崎県の被害総額は2,350億円にも及びました。現在も中東、アフリカ、わが国の周辺の東アジア、東南アジア諸国およびロシア沿海地方においては、口蹄疫の発生が続いており、わが国への再侵入が懸念されています。 口蹄疫の診断法にはウイルス遺伝子検査、培養細胞を用いたウイルスの分離、ウイルス抗原検査(ELISA、イムノクロマト法)、感染抗体検査などがあります。わが国で疑い事例が発生した場合は、検体を動物衛生研究部門の海外病研究施設の封じ込め施設(封じ込めレベル3ag)に緊急で持ち込み、遺伝子検査などにより4〜5時間かけて確定診断します。 このため、実験室内ではなく口蹄疫の発生現場において簡易・迅速に検査する技術が関連部局より強く望まれ、口蹄疫抗原検出キットの開発に着手しました。本研究開発は農研機構、富士フイルム株式会社(以下富士フイル特集 防ぐⅡ ■迅速かつ高感度に口蹄疫ウイルスの検出が可能な銀増幅イムノクロマトキットの開発森岡 一樹
元のページ ../index.html#22