■ 2019年6〜7月の国内での発生状況■ はじめに飼料用トウモロコシに寄生したツマジロクサヨトウの幼虫図2NARO Technical Report /No.11/202234OTUKA Akira ツマジロクサヨトウというガの一種がいます(図1)。成虫は体長約20mm、体重100mg程度のチョウ目ヤガ科の昆虫で、80種以上の寄主植物が知られていますが、特にトウモロコシなどイネ科植物によく寄生します。トウモロコシの株では幼虫が抽出中の若い柔らかい葉を好んで食べて加害します(図2)。ツマジロクサヨトウの原産地は南北アメリカ大陸の熱帯、亜熱帯地域です1)。この虫は長距離を移動する性質があり、北アメリカ大陸ではテキサス州やフロリダ州の南部以南で越冬した個体群が春以降大陸を北上し、夏季にはカナダ南部まで到達し、秋には南部の越冬地に戻ると考えられています1)。 ところが本種は2016年にアフリカ大陸の西部で初めて確認された後、翌年には同大陸の広い範囲に分散しました1)。2018年夏にはアジア地域で初めてインドで発生が確認され、2019年1月には中国南西部で発生が確認されました1)。驚くほどの速さで分布域を拡大したツマジロクサヨトウは、さらに2019年6月には台湾と韓国で発生が確認され、7月には遂に鹿児島県で日本初の発生が確認されました。この年は西日本や関東と東北地方の合計21県で発生が確認され、青森県が一番北でした2)。その後本種は2019〜2020年の冬季には中国南部と台湾で越冬するようになりました。そのため2020年からは、沖縄県では周年でフェロモントラップでの誘殺があるようになりました。九州本土では3月から誘殺が始まり、初夏から梅雨時期を中心に飛来するようになりました。2020年は42道府県で発生が確認されました2)。 2020年までに国内で発生が確認された寄主植物はトウモロコシ(飼料用、観賞用およびスイートコーン)、ソルガム(飼料用、緑肥用および防風用)、さとうきび、えん麦(飼料用)、ハトムギ、もちきび、ショウガおよびイネ科牧草です2)。この内畜産が盛んな九州では飼料用トウモロコシが春と夏に2回栽培され、特に夏作でツマジロクサヨトウの被害が目立ちます。これは飛来したツマジロクサヨトウが夏から秋にかけて増加するからです。 ツマジロクサヨトウは新規に侵入した害虫であるため、東アジアでどのように発生し、移動しているかについての移動実態の解明が必要です。ここでは日本に初めて飛来した2019年の初期の飛来事例についてその飛来源や飛来実態を推定し、飛来源での発生状況がわかりましたので紹介します。なおこの解析は中国の南京農業大学、韓国の国立農業科学院と共同で行った研究に基づきます。 2019年は中国や台湾、韓国でのツマジロクサヨトウの発生情報が随時日本へ入ってきていましたので、長距離移動性を持つ本種が日本へ飛来するだろうことが高い蓋然性を持って予想されていました。そのため同年6月から特集 防ぐⅡ ■ツマジロクサヨトウの日本への侵入と初飛来の解析大塚 彰
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