農研機構技報No.11
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■ おわりに参考文献̶1)松村ら(2019) ツマジロクサヨトウの中国における分布拡大と日本への侵入図5中国、台湾での幼虫の発見時期NARO Technical Report /No.11/2022湖北湖南広西江蘇安徽浙江江西福建広東上海台湾5月22日までに幼虫が発見された6月5日までに幼虫が発見された6月20日までに幼虫が発見された警戒.植物防疫, vol.73(7), 434-438.2)農林水産省(2021) 「ツマジロクサヨトウ」防除マニュアル(第2版).    https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/keneki/k_kokunai/attach/pdf/tumajiro-150.pdf (参照 2021-12-1)3)Wu, M. -F. et al. (2021) Overseas immigration of fall armyworm, Spodoptera frugiperda (Lepidoptera: Noctuidae), invading Korea and Japan in 2019. Insect Science, DOI 10.1111/1744-7917. 12940.37(植物防疫研究部門 基盤防除技術研究領域海外飛来性害虫・先端防除技術グループ)特集 防ぐⅡ ■ 中国、台湾、日本での発生状況および飛翔軌道の解析から、ツマジロクサヨトウが2019年に日本に初めて飛来した際の時期と経路、飛来源や飛翔高度が推定され、飛来実態がわかってきました。中国の南部の複数の省にまたがる広い地域が飛来源と推定され、当時の天気図を参照すると前線を伴った低気圧が九州の北部を東へ通過していました。これはイネウンカ類やハスモンヨトウなど移動性の農業害虫が飛来する気象条件によく似ており、ツマジロクサヨトウもこうした低気圧の南側にできる強い南西風を利用して、東シナ海を越えて飛来することがわかってきました。上述したようにその推定移動距離は1,000kmを越えることもあり、これまでツマジロクサヨトウは1回の移動で500km程度移動すると考えられてきましたが、この研究によってそれを遥かに上回る距離を移動できることが示唆されました。現在こうした飛来実態に基づいてツマジロクサヨトウの飛来予測技術を開発しており、今後海外飛来の早期警戒と適期防除が実現されると期待されます。 またこの研究で特徴的なのは侵入と発見の経緯です。通常新規害虫はその発生が確認されてから初めて侵入がどのように起こったかを検討し始めるのが一般的ですが、ツマジロクサヨトウの日本へ侵入については予め東アジアでの分布拡大の情報がリアルタイムで共有され、飛来によって起こるだろうと予測されていました。そのため侵入直後の発生調査が可能となり、実際に幼虫の発生が迅速に確認できました。このことでその後の飛来の実態解明がやりやすく、上記の様に大変明瞭な侵入実態を明らかにすることが可能となったのです。この例から言えることは、越境性害虫の管理では国を越えて害虫の発生情報や防除技術の情報を共有していくことが重要ということです。農研機構では東アジア各国の研究機関と協力関係を構築して、害虫管理に関する様々な共同研究を推進しています。気候変動下で昆虫も移動実態や発生状況が変化してきており、これまでとは違う地域に飛来が起こったり、新しい害虫が飛来したりすると考えられますので、今後とも国際協力を進めながら東アジア全体で移動性害虫を適切に管理していくことが重要です。

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