NARO Technical Report /No.11/20225TOKASHIKI Masaru特集 防ぐⅡ 特集のテーマであるレギュラトリーサイエンス(RegulatoryScience)は「規制科学」と訳されます。「規制」という言葉から、私たちの生活や行動を縛るものと考える人もいるかもしれません。実際、最近では新型コロナウイルス感染症対策として行動規制や入国規制などが発動され、多くの人々の日常生活が大きな影響を受けました。しかし、これらの規制の目的は人々の生命と健康を保護することです。規制とは、生命の安全、環境の保全、消費者の保護などの行政目的のために人々の権利や自由を制限するものです。 それでは、レギュラトリーサイエンス(規制科学)は規制とどのような関わりがあるのでしょうか。レギュラトリーサイエンスについては国内外に種々の定義があります。国内では、第4期科学技術基本計画に「科学技術の成果を人と社会に役立てることを目的に、根拠に基づく的確な予測、評価、判断を行い、科学技術の成果を人と社会との調和の上で最も望ましい姿に調整するための科学」と定義し、「国は、科学的合理性と社会的正当性に関する根拠に基づいた審査指針や基準の策定に向けて、レギュラトリーサイエンスを充実する」とされています。レギュラトリーサイエンスが対象とする分野は多岐にわたり、医薬品、医療機器、食品、化粧品、農薬などから気候変動まで、規制がかかる社会のほぼすべてがその対象となります。 レギュラトリーサイエンスの主要な手法はリスク分析であり、主にリスク評価、リスク管理そしてリスクコミュニケーションの3要素からなります。そのうち、最も科学的寄与が大きなプロセスがリスク評価であり、生命や健康に悪影響を及ぼす因子を特定し、その影響を定量的に評価します。リスク評価の結果を基に行政部局が規制の基準値などを設定して施行することとなります。 農業分野では、農林水産省が、「レギュラトリーサイエンスは、科学的知見と、規制などの行政施策・措置との間の橋渡しとなる科学」と定義し、「食品安全、動物衛生、植物防疫などに関する問題の発生や発生後の被害拡大を防止するための施策・措置を科学的根拠に基づいて検討する際に、レギュラトリーサイエンスに属する研究の成果を活用」としています。これを筆者なりの理解でわかりやすく言えば、「人、動物、植物の生命と健康を保護する規制などの行政施策を決定する際に必要となる科学的根拠を与える科学」が農業分野のレギュラトリーサイエンスとなります。 本特集では、農研機構が取り組んでいるレギュラトリーサイエンス研究の成果のうち、食品安全関係2報、動物衛生関係5報、植物防疫関係1報を紹介します。先に刊行した本誌No.9での、植物防疫関係3報も参照いただけます。 農研機構は、これからも人、動物、植物の生命と健康を保護するためのレギュラトリーサイエンス研究に取り組んでいきます。本部 企画戦略本部レギュラトリーサイエンス管理役渡嘉敷 勝人、動物、植物の生命と健康を保護するために
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