農研機構技報No.11
6/40

■ PCRの技術的限界■ はじめに熱処理でDNAを一本鎖に分離PCRによるDNA増幅プライマーDNAが対形成50-60℃95℃プライマーからDNAが伸長72℃図1NARO Technical Report /No.11/20226TAKABATAKE Reona1サイクル目2サイクル目 テレビや新聞、インターネットのニュースなどでPCR※1という言葉を頻繁に目にするようになりました。PCRとは、生物のもつ遺伝子の本体であるDNAの特定の領域を大量に増幅させる技術です。標的となる配列を挟むように2種類のプライマー※2を設計し、熱変性、アニーリング※3、伸長反応を繰り返すことによって、標的配列を指数関数的に増幅させることができ、高感度の検出が可能となります(図1)。PCRは、米国の分子生物学者Kary Mullisによって1983年に開発されました。Mullisはこの功績により1993年にノーベル化学賞を受賞しています。 PCRは、その高感度な検出性能を活かして、遺伝子組換え食品、品種判別・がん・感染症の検査などに幅広く用いられています。PCR検査においては、正しい結果を得るために検査機器や試薬の精度が適切に管理されていることが重要です。 PCR検査に限らず化学分析の世界では、偽陰性あるいは偽陰性率という言葉がよく出てきます。偽陰性率とは「陽性であることが既知の試料を陰性と判定した比率」のことをいいます1)。すなわち、感染症の検査では、検体中に病原体が存在しているにもかかわらず、検査によって検出されずに陰性と判定してしまうことから、感染症の拡大につながる恐れがあります。また、食品表示においても、偽陰性による標的の見逃しがあれば、表示制度の信頼性に関わります。 一般的には、PCRは最適な条件下であれば、■か1分子のDNAをも検出可能であると考えられており、その仮説を根拠に応用技術が開発され、検査の性能評価がなされてきました。しかしながら、実際に1分子のDNAがPCRによって検出可能であるのか、また、検出可能な場合100%の確率で検出できるのか、といった問題については全く検証されていません。特集 防ぐⅡ ■正確な分子のモノサシをつくるDNA標準物質(1分子標準物質)の開発高畠 令王奈

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る