■ 「世界のイネ」コアコレクション■ はじめに図1多様な形質を持つ世界のイネ品種 (撮影:寺本翔太氏)畑で育てたイネの近くに大きな穴を掘り撮影した写真からディープラーニングを利用して根の分布を可視化している4)。NARO Technical Report /No.12/202214KAWAKATSU Taiji 地球温暖化に伴い地球規模で水不足が深刻化しており、干ばつによる減収が世界的に食料安全保障上の大きな問題になっています。過去30年間では世界の主要作物(コメ、小麦、大豆、とうもろこし)の栽培面積の4分の3に相当する4億5千万haで干ばつによる被害が発生しています1)。世界的には降水量が多く水が豊富な日本では主に水田で稲作が行われますが、大渇水が発生すると農業用水の取水制限が行われます。また、世界では天水田※1や畑でも稲作が行われており、世界の稲作地域の62%(1億ha)は過去30年間に干ばつによる収量被害を受けたことがあります。このような地域におけるコメの安定生産には干ばつに強い品種の開発が求められています。 干ばつに強い作物は太い根を地面の深くまで伸ばしますが、イネは畑作物に比べて根が貧弱で干ばつに弱い作物です。農研機構はイネの遺伝資源から深根化に必要な遺伝子を発見し、干ばつに強いイネの開発に成功しています2)。より干ばつに強いイネを開発するためには深根化に加えて根を太くし、よく根張りさせることが効果的と考えられます。しかしこのような特徴を持ったイネは現代の品種にはほとんど存在せず、品種改良に利用できる根の太さや根張りに関与する遺伝子は不明でした。そこで世界中の代表的なイネ品種に畑で断続的な干ばつ処理を行い、根の形態的な特徴と網羅的な遺伝子発現を解析し、干ばつによる根の生育阻害の原因と考えられる複数の遺伝子を発見しました3)。 作物育種では改良したい対象品種と有用な形質を持つ品種を交配し、優良形質を持つ系統を選抜します。「世界のイネ」コアコレクション(World Rice Core Collection: 略称WRC)は、農研機構のジーンバンクに保存されている約4万点のイネ遺伝資源から多様な形質を持つ育種素材として選抜された代表的なイネ品種セットです。WRCは大きく4つの亜種(ジャポニカ品種、インディカ品種、アウス品種、混合品種)に分けられます。WRCを構成する69品種は栽培イネ遺伝子多様性の90%を網羅しており、最小限の系統数でイネが持つ多様性を解析する材料として最適です。草型や根の広がり方も多様です(図1)4)。イネは日長を感じて開花しますが、その感受性は品種に干ばつによりイネの根が貧弱になる仕組み川勝 泰二
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