仕組みに関与する転写因子 共発現モジュール(M1)には乾燥ストレスに関わる遺伝子が多く含まれていました。M1に属する遺伝子の発現は冠根の太さと負の相関を示すため、M1は干ばつストレス条件における冠根の太さの制御に関わると考えられます。遺伝子発現はゲノム上の特定のDNA配列に結合するタンパク質である転写因子によって制御されます。M1の共発現ネットワークは18個の転写因子を含む231個の遺伝子で構成されていました(図7)3)。M1に属する転写■ 干ばつストレスを受けた根が細くなる■ おわりにOsbZIP46転写因子ファミリー共発現している遺伝子数(転写因子のみ)OsbZIP39干ばつストレス条件で根を細くする共発現ネットワーク(Kawakatsu et al., 20213)を改変)転写因子は丸、転写因子以外の遺伝子は黒点で示しています。遺伝子発現パターンが類似している遺伝子を線でつないでいます。丸の色は転写因子ファミリーを、大きさは共発現している遺伝子数を反映します。DAP-seqの転写因子によって制御を受けていると推定された共発現関係は紫線で示しています。転写因子同士の共発現関係は青線で示しています。用語解説̶※1 天水田 灌漑施設がなく、雨水のみでイネが栽培される水田。※2 バックホー 地面の掘削などに使われる建設用の重機の一種。※3 共発現モジュール よく似た発現パターンを示す共発現遺伝子セットで、参考文献̶1)Kim, W. et al. (2019) Global Patterns of Crop Production Losses Associated with Droughts from 1983 to 2009. Journal of Applied Meteorology and Climatology, vol.58(6), 1233-1244.似た機能を持つ、もしくは同じ生命現象に関わると予測される。※4 オーキシン 植物ホルモンの一種で、根の形づくりを含めて様々な生理現象に重要な役割を担っている。2)Uga, Y. et al. (2013) Control of root system architecture by DEEPER ROOTING 1 increases rice yield under drought conditions. Nature Genetics, vol.45(9), 1097-1102.3)Kawakatsu, T. et al. (2021) The transcriptomic landscapes of rice cultivars with diverse root system architectures grown in upland field conditions. The Plant Journal, vol.106(4), 1177-1190.4)Teramoto, S. and Uga, Y. (2020) A Deep Learning-Based Phenotypic Analysis of Rice Root Distribution from Field Images. Plant Phenomics, vol.2020, 3194308.5)Teramoto, S. et al. (2019) Backhoe-assisted monolith method for plant root phenotyping under upland conditions. Breeding Science, vol.69(3), 508-513.図7bZIPWRKYMYBothers15011376381転写因子による発現制御転写因子同士の共発現共発現NARO Technical Report /No.12/202217(生物機能利用研究部門 作物生長機構研究領域作物環境適応機構グループ)示す共発現モジュールには、植物ホルモンの一種であるオーキシン※4によって発現量が上昇する遺伝子が多く含まれていました(図6)3)。このことは干ばつストレス条件で根の生育が悪い品種では、オーキシンによって誘導される遺伝子群が強く働いていることを示唆しています。オーキシンには根の生育を調節する役割があるため、これらの遺伝子群の働きを制御することで、干ばつストレス条件でも根の生育を良くできると期待できます。因子の内、特に多くの遺伝子と共発現するOsbZIP46とOsbZIP39は様々なストレス応答に関わることが知られています。次世代シークエンサーを利用して転写因子がゲノム上に結合する領域を網羅的に同定するDAP-seqによって、OsbZIP46とOsbZIP39が制御しうる遺伝子を探索しました。その結果、M1の共発現ネットワークを構成する遺伝子の内、最大82%がOsbZIP46とOsbZIP39によって直接もしくは間接的に制御されていることが示唆されました。このことから、OsbZIP46とOsbZIP39は干ばつストレスによる細根化に重要な役割を果たしていると考えられました。 本稿では干ばつでイネの根が貧弱になる原因と考えられる遺伝子について紹介しました。環境変動に頑健な作物の作出はSDGsの達成に不可欠であり、世界共通の課題です。農研機構はWRCの遺伝子情報、形質情報、全遺伝子発現情報を公開しており、根の太さ以外の形質を制御する遺伝子についても同定が進むことが期待されます。今後、根の形態を制御する様々な遺伝子を利用することで干ばつに強いイネ品種の開発を進めていきます。
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