♂♀蛹卵 ネムリユスリカ アフリカのサハラ砂漠の南に広がる半乾燥地帯に生息するネムリユスリカ(Polypedilum vanderplanki)は、体内の水分を失ってカラカラに干からびても死なないことで知られている昆虫です1)。雨季の時期、卵から幼虫を経て蛹になるまで小さな水たまりの中で過ごし、翅をもった成虫になると空を舞いつつ交尾をして、小さな水たまりに産卵するという生活史を送ります(図1)。このサヘル地域の雨季はたった3カ月ほどしか無く、乾季が8カ月以上続くため、乾燥に耐える能力の無い生物は生きながらえることはできません。ネムリユスリカは、幼虫の時期に限定されますが、干からびても死なない能力を発揮することで、小さな水たまりが完全に蒸発した長い乾季を乗り越えることができるのです。以前イギリスで行われた実験の結果、乾燥させたネムリユスリカの幼虫は、蘇生可能状態を17年以上維持することができたということが報告されています。この蘇生可能で干からびた状態は乾眠(anhydrobiosis)と呼ばれ、呼吸を含めたすべての代謝が止まっています。■ 干からびても死なない生物:■ はじめにネムリユスリカの生活史と乾燥耐性ネムリユスリカは、卵(3日程度)、幼虫(約1カ月、4齢幼虫が最終齢)、蛹(2日程度)および成虫(2〜3日程度)と変態し、空中で交尾した雌は水面に産卵して一生を終える。幼虫の時期のみ干からびても死なない性質を持つ。乾燥すると48時間かけて乾眠の状態になり、再水和すると1時間程度で元の活動状態に戻る。Based on Cornette & Kikawada (2011) IUBMB Life 成虫再水和乾眠幼虫乾燥図1NARO Technical Report /No.12/202218はねかんみんKIKAWADA TakahiroCORNETTE Richard生活史雨季乾季 我々人間を含めて普通の生き物は、体内水分の維持は極めて重要です。実際、体内から水分が無くなっていくにつれて、体液の流動性が低下し十分な代謝が行えなくなります。この状態が重度に進行すると、細胞膜やタンパク質は元に戻れないような構造変化を起こしてしまい、個々の細胞の機能が失われていく結果、個体そのものが死に至ります。しかし、世界には、体内の水分が極限的に減少しても死なない生き物がいくつか存在しています。干からびても死なない生物ネムリユスリカが持つ乾眠に必要な物質黄川田 隆洋 コルネット リシャー
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